俺が女子高生を拾った話

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 俺は、覚悟して彼女を家まで送り届ける。  毒親だろうが、親には違いない。  真夜中に、見知らぬ三十歳すぎのおっさんと一緒。  怒鳴られるならマシ、殴られるか、警察呼ばれるか……。  チャイムを鳴らしたがかなり待たされる。ようやく出てきた母親らしい中年女は、寝ぼけ(まなこ)だ。 「夜遅く、すみません。お嬢さんが道で怪我したので、こちらまで送りました」  直角に頭を下げた。ここは愁傷にするしかない。  俺は、母親の攻撃を覚悟した。  が、その中年女は、俺をちょっと(にら)んだけで娘を向いた。 「また、パパ活? ほどほどにしなさい」  女はそれだけ言い捨てると、奥に引っ込んでいった。 「お母さん、すごい強烈でしょ?」  女子高生が笑ってる。溢れんばかりの涙を堪えながら。 「おじさん!!」  彼女がしがみついてきた。 「私、パパ活なんてしてない!! 彼氏いたことないし、エッチだってチューだってしたことない! 信じて! ねえ、信じてよお!!」  ここまで来ると、役得というより拷問(ごうもん)だ。 「お前、もっと勉強しろ」  もっと勉強しろ。男のことを。  三十男なんて、中身はお前の隣の席のやりたい盛りのガキと一緒なんだぞ。  それに、俺はもう、何年も女とご無沙汰だぞ。 「私、経理もパソコンも勉強する。そしたら、おじさんを手伝うよ」 「お前が一人前になったら、面接してやるよ」  俺はいつまでも泣き止まないその子の頭を、ポンポンと撫でてやった。すごいぞ俺。よく耐えてる。  大丈夫だ。ちゃんと勉強すれば、こんな零細企業じゃない、もっとすごい大企業に行きたくなる。  そのころになれば、変なおじさんのことなど忘れるはずだ。  配送先で遅延についてこってり叱られ、会社に戻る。いつの間にか朝だ。  同業者に電話を入れた。 「最近、風見峠あたりで事故増えたりとかないか? 俺、昨日、うっかり、ひきそうになってよ」 「へえ、社長もですか~、うちもです。SNSで怪しいパワースポットってことで拡散し、若い子が集まってるみたいですよ」 「ヤバいな。事故らないよう組合に注意喚起だな」  女子高生には、事務所の連絡先を伝えておいた。  連絡がなければそれでいい。あれば、できる限り話を聞いてやる。  俺は俺でできることをするだけだ。
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