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たわいない話を続けた後、不意になでしこが切り出した。
「リリスさん…あなたはあの雨の中倒れていましたけど…どうして…」
なでしこの中ではなんとなく想像ができていたが敢えて遠回しに聞いていた。
「………川平 啓太に…会いにきたの…」
俯きポツポツと出てきた言葉にはなでしこのよく知っている人物の名がでてきた。
「啓太様に会いにきたとは…どのようなご用で?」
啓太の名が出ても柔らかな微笑みのまま話を続けたなでしこだが、リリスは次の言葉を出すのにしばらくの間があった。
「…………」
「…………」
静まりかえる一室。蝉の鳴き声だけが響きわたり、ポツリと少女は呟いた。
「…救って…ほしいのよ…」
今まで話していた少女の雰囲気ではない。むしろ、今の今まで話していた少女とは思えないほどに重く、切なさを抱いた。
なにからとはなでしこは聞けなかった。理由は違う…でもなぜかなでしこには同じなにかを昔に感じていたことがあった。
だがなでしこには少女に残酷な一言を言うほかにはなかった。
「…啓太様は…ここには…いないんです…」
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