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下の階に降り、朝食の準備をしようと台所に立った。──のだが。
「クロサキさん、後ろから抱き締められましたら、料理が作れません」
「··········っ。·····ごめん」
小さく謝罪を口にした後、素直に離れた彼は、いつもより歩幅を小さくして席に座った。
その様子が落ち込み、名残惜しさもあると思われるが、料理中にあのようなことをされたら危ないからそうしたまでであって、彼のことを嫌がっているわけではない。
それに。これ以上彼には傷ついて欲しくないから。
人間界に来て、日が浅い頃に見たクロサキの身体のことが頭に浮かび、胸がずきりとしながらも、料理を作っていき、テーブルへと並べていく。
シロアンは食べなくても平気な体質であるらしいが、クロサキだけ食べさせる形にしてみた時、彼が遠慮して食べなくなってしまったので、それでは彼の身体には毒であるので、一緒に食べることになった。
クロサキの前の席に座り、まだ落ち込んでいる様子の彼に、「さぁ、食べましょう」と声を掛けた。
「いただきます」
「·····いただき、ます·····」
シロアンが手を合わせて言うのを、続けて小さく言いながら、手を合わせた後、料理に手をつけていく。
一口の半分程度を小さく開けた口で食べる様が、イオの友達である丸ニャーのようで可愛らしいと思い、微笑ましい表情で見つめていると、僅かに頬が緩んだような気がした。
表情がかなり乏しい彼であるため、他人では分からないがシロアンの目からは、美味しいと喜んでいることが分かり、自然と笑顔になってしまった。
「美味しいですか?」
分かりきっているのにそう口にしてみると、小さく頷いた彼に、「そうですか。作った甲斐があります!」と弾んだ声で返した。
起きた時といい、さっきといい、いつも以上に甘えてくる彼に困惑していたが、いつもと変わらない日常があって、安堵しているシロアンであった。
が。安堵するのは非常に早いと後々思い知らされることになった。
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