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オレも弓道場を後にした。歩幅が狭いので、簡単に彼に追いつく。加藤くん、見えないけど泣いてる…?
「何ですか。別に、ボクは何ともありません。再三言いますが、彼はただの尊敬する先輩なのであって…」
「そんな風には見えねーよ。いいじゃん?好きなら好きでさ。自分の気持ちを、否定する必要ないと思うけど?」
「否定だなんて…。だけど、本当に分からないのです。尊敬なのか、恋なのか?彼の事をどう思っているのか、自分でもよく分からない…」
「加藤くん?」
「彼への気持ちだけじゃない、自分自身の事も…。ボクは、男です。身体も、心も。女性っぽく見られる事が、嫌で嫌で堪らない…。だけど『Aqua』になって、女性として扱われる事が嬉しくて仕方がない。自分の事が、自分で分からない。レオ君、ボクが男でも構わないって言いましたよね。そ、その。もしもの話ですよ。男でも女でも、どちらでもなかったとしたなら…」
「ストップ!もう、そのくらいで!いいじゃん。『性別:加藤くん』って事で。どっちみち、可愛いからOK。全然抱ける」
「また、そんな事を言って茶化す…。いいですよね。あなたには、悩みなんてなさそうですから」
「はぁ?馬鹿にしてる?オレだって年頃なんだから、悩みとか山ほどあるっての。でもさぁ…『〇〇だから悩まなきゃいけない』とか、『他人が言うから悩まなきゃいけない』とか。そんなのは、クソくらえだよ。何に対していつ悩むかは、自分で決めていいんだ。だって、他ならぬ自分の人生なんだからさ」
「何を言っているか、一言も理解出来ません。でも…すごく、あなたらしいですね。あなたのそう言う所は、すごくいいと思います。その…」
その時一陣の風が吹きすさび、彼の顔にかかっていた前髪をなびかせた。すげーな風、めっちゃ空気読んだな。風だけに。
「ボクも、レオ君の事が大好きだよ。あなたに会えて、本当に良かった…」
「そ…その、敬語やめた時だけ素顔見せるの反則!可愛いんじゃい!何なの?タメ口叩いたら風を呼び起こせる、能力者か何かなの?」
「はぁ?知りませんよ。ボクがやっている訳ではありませんから。風に聞いて下さい。それより…やっぱり今からでもカラオケ行きません?昨日さんざん歌いましたが、まだ歌い足りなくて」
「お…おう!オレも久々に加藤くんの歌、生で聞きてーな!ってかそんな、何日も経ってないんだっけ」
そう言って、オレたちは公園を後にした。加藤くんは、笑っていた。だからきっともう、大丈夫。そして、この先に何が待ち受けていたとしてもオレたちならきっと大丈夫だ…!
「それで結局、『ひとなり』君?『じんせい』君?どっちよ」
「絶対に、教えません。あなたが、呼びたい方でどうぞ」
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