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「ねえ、なんであの時、私のこと振ったの?」
酔った勢いで、ユウくんに意地悪を言った。
夜桜がひらひらと揺れ、静かに私達を見下ろしている。
「だって、そういうふうに見れなかったから」
古傷を抉られてしまった。
ユウくんは、私より意地悪に笑う。
「だったらなんで、そのあと付き合ってくれたの?」
それで、なんだかんだ十年も続いているの?
彼はあの頃よりも目尻を下げて笑った。
「ありがとうって言った時の真弓、すごく綺麗だったから」
思ってもみなかった返事に、あの日の気持ちが鮮明に蘇って、また泣きそうになるのを我慢した。
「……ありがとう」
「そう、それ」
ユウくんはまた笑う。
久しぶりに訪れた学び舎は、校門の外から覗いただけでもすぐに思い出せる程、本当に当時のままだった。
「真弓。……俺達、そろそろもう一度卒業しないか」
校門の前で、彼はじっと私を見つめた。
いよいよこの日が来たか。
薄々気づいていたし、悲しいかな、少しずつ覚悟はできていた。
十年前、振られた翌日に彼から告白されて、本当に夢のような気持ちだった。
紆余曲折ありながらも、そのままずっと交際を続けて、だけどその先の進展はなくて。
彼の転勤が決まってから一ヶ月。
そろそろ、別れを切り出されるのかもしれないと思っていた。
あの日のように蘇る、二人で過ごした十年間。
ユウくんがいたから、高校生活の悲喜交々も充実して楽しめたし、お互い支え合って大学受験も乗り越えられた。
ユウくんと何度も語り合ううちに、自分の本当にやりたいことも見つけられたし、就職活動もなんとか成功した。
そして今も、ユウくんのおかげでなりたい自分になれている。
だから今度も、絶対に泣かない。
「……今までありがとう」
そう微笑むと、ユウくんも優しく微笑み返してくれる。
「こちらこそ、ありがとう」
そして、小さな箱を私に差し出した。
「……なに?」
手渡された箱を開けて、今度という今度は溢れる涙を我慢できなかった。
「恋人は卒業して、結婚しよう。真弓」
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