第2章 夢の国へ出発

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「…なるほど。分かったわ。ね、ティーザ。これが終わったら、街に行って、思いっきり遊びましょ。」  アマンディアが言って、ティーザの背中を()でてくれる。 「そうね。わたしもそれがいいと思う。イケメンをもっと眺めて目の保養をする。」  レイラがそんなことを言い出した。恋愛よりも研究命、みたいなレイラが、そんなことを言い出したのだ。 「レイラ?」 「何か変な物でも食べたかしら?」  泣いていたティーザの涙も、驚きのあまり引っ込んだ。アマンディアもびっくりして首をかしげる。  やがて、若者二人が廊下から戻ってきた。 「申し訳ありません。その…ティーザさんの母君の親戚の方に、連絡をしたのですが…もう離婚しているから関係ないと言われてしまいまして。そのペンダントのことも所有権が移ったままでいいので、ラルジ家とは関係ないというお話でした。  期待をさせてしまい、申し訳ありませんでした。」  そう言って、ベンスとランギークは頭を下げてくれたが、だって、確認のためにも必要だったはずだ。 「あのう、いいんですよ。お仕事の一環だったんでしょう?その書類の通りか、確認しなくてはならなかったのでしょ。それに、わたし達やることが済んだので、これで思いっきり羽を伸ばして観光して遊ぶことにしたんです。」  アマンディアはにっこりして返す。 「…はい、それは確かに仕事ではありましたが。」  ベンスは言いながら、気遣うようにティーザを見つめる。自分を見てくれていることに、ティーザはなぜか胸がきゅっとした。 「…あの、わたしは…これですっきりしました。その…調べて下さってありがとうございました。仕事であったとしても…はっきりしました。わたし…嬉しかったです。見知らぬわたしのために、調べてくれました。感謝しています。  それに…何もかも、分かって納得しました。父が無理をして…わたしを女学校に入れたかった理由も…父がわたしに…母のことを教えてくれなかった理由も…みんな、繋がりましたから。」  ありがとうございました、とティーザは頭を下げた。 「…あのう、実はあなたの母君の現在の名前まで調べました。」  ランギークが小さな紙を差し出した。何をどうやるのか知らないが、とにかく叱られながら聞き出したらしい。 「あなたの母君は、ネジョン家に嫁がれています。ネジョン家はニーリベル流という剣術家門の一族で、途絶えたニーリベル家に代わって、ニーリベル流を継承してきた一族です。」  一応、母の名前が書かれた紙を受け取った。 「……ありがとうございます。」 「…私の思うに、ラルジ家よりもネジョン家の方が柔軟かと。」  ランギークが話し出した。何を言いたいのか分からず、ティーザは彼の顔を見つめる。母のことがなかったら、照れて見つめられない。 「私も古い剣族の一族ですが、貴族よりは柔軟です。」 「…けんぞく?」  ティーザは首をかしげる。 「あのね、剣族っていうのは、いわば一種の身分よ。一応、昔は平民ということだったけれど、今はれっきとした特権階級。武人の身分の一つと言っていいかしら。  昔、サリカタ王国には十剣術という、国が定めた十の剣術流派があって、その十剣術を修めて免許皆伝すれば、剣族として認められたそうなの。昔から平民といえども、半分特権階級だったみたい。今やれっきとした特権階級ね。  あなたのお母さんの再婚相手は、ニーリベル流の家の人って言ってたでしょ。つまり、お母さんの再婚相手は剣族ってこと。」  レイラの説明を受けて、ようやく話が見えてきた。 「つまり、彼が言いたいのは、お母さんの血のつながりのラルジ家に連絡を取るより、再婚相手のネジョン家に連絡を取った方が、いいんじゃないかってことよ。その方がお母さんに会える確立が高いんじゃないかって、教えてくれてるの。」  そこまで教えてくれて、ティーザは胸が詰まった。見知らぬ人達なのに。今日、初めて会った人達だ。 「…ありがとうございます。でも、わたし…今日は…しばらく考えないと…。」 「もちろん、すぐにどうとか、言っているわけではありません。」 「ええ、そうです。私達にできることは、ここまでなので。」  ランギークとベンスが補足してくれた。 「他に何かありますか?記録を解除するものなど。」  何もない、と言おうとした矢先、アマンディアが口を開いた。 「お待ちください。実は遊びに行く前に、保管用の書類をどこにしまっておこうかと悩んでいるんです。貸金庫がいいのかしら?」  確かにそうだった。シャンズが怪しいので、会社で使用している貸金庫などは使えない。 「わたし、昔、サリカタ王国に来たことがあるんですけど、その当時、民警に預けることができるサービスがあったと記憶しているんですが。」 「それなら、フェイジュの街の民警事務所に行って預けるといいですよ。」  ランギークが答える。 「ご案内して頂けませんか?もちろん、お仕事に差し支えなかったらですけど?」  アマンディアの発言に、ランギークとベンスは顔を見合わせた。 「…後は帰るだけなので、特に用事はありません。」 「ただ、その前に入国の手続きをしないといけませんが。」  ベンスとランギークは素直に答えてくれた。レイラとティーザは、アマンディアの手管に驚いていた。まっとうな理由で一緒に街を歩く理由を作ったのだ。 「そうしましたら、入国の手続きを完成させましょう。」  ベイリスは言って、通信機のイヤリングに何か語りかけた。ベンスとランギークは機械を片づけている。 「それでは、お先に失礼します。」  二人は先に部屋を出て行った。 「…あの二人の他にも、街に行けば“目の保養”はたくさんいますよ。」  ベイリスがにやっと笑って言った。聞かれていたのだ。ティーザとレイラは、穴があったら入りたいほど恥ずかしかったが、アマンディアはどこ吹く風だ。 「そうでしょうね、来たことがあるのは随分昔だから、とても、楽しみだわ。おほほほ。」  ティーザとレイラは真っ赤になったのだった。
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