第4章 夢のような街

1/3
前へ
/19ページ
次へ

第4章 夢のような街

 フェイジュの街を、ベンスとランギークに案内されながら歩いていて、ティーザは目を丸くした。街は綺麗に整えられ、ゴミは落ちていないし清潔だった。何より目を引いたのは、乗り物だ。いや、乗り物だけではない。全てに目がいく。  そもそも、人々の服装が古風なのは、入国審査を受けている時から分かっていたが、街を歩いている人がみんなそうなので、思わず見つめてしまう。  ゲモと呼ばれるズボンを履き、足首までの皮靴を履いている。グマと呼ばれるシャツにゲマと呼ばれる中着、ギマと呼ばれる上着、さらにマントを羽織っている。マントは素材を変えたりしながら、春夏秋冬のほとんどで着用、調整は中着や上着で行う。さらに、上着の上から帯を締め、帯に剣をさすか剣帯を下げて剣を下げる。  女性もそのスタイルはあまり代わらない。ただ、ギマとゲマが長くなったり、ゲモが裾広がりになったりして、少しドレス状になっている。一見、ひらひらした服装に見えるが、案外機能的に動きやすそうだ。女性達は髪型に力を入れているらしい。馬の尻尾の髪型、つまりポニーテールが主流だが、女性の場合は横を編み込んだり、(かんざし)でおしゃれにしている。  男女ともに(ひたい)飾りもつけている。男性はつけていない人もいるようだが、つけている人も多い。そして、ペンダントやチョーカーのような感じの首飾りも当然のようにつけている。女性は普通に石を連ねたようなネックレスもつけていた。イヤリングもつけている。  そのような服装が、最低でも五百年間は変わっていないという。多少の変遷(へんせん)はあるようだが、ほとんど変化がないらしい。  レイラの即席講座で教えて貰った。そのレイラの説明に、ベンスとランギークは(おどろ)いていた。 「…先ほどから思っていましたが、本当によくご存じですね。」 「びっくりしました。」  二人が言うと、レイラはそれほどでもありません、とは言わなかった。レイラが胸を張って答える前に、母親のアマンディアが口を出した。 「そうでしょう、うちの娘、賢いの。十三歳で史上最年少で大学に入ったのよ。しかも、女の子で初めてよ。さらに、十七歳で大学院まで卒業したわ。もう、民俗学の博士なの。本当に自慢の娘よ。」  アマンディアの勢いと話の内容に、二人の青年は若干気圧されたようだった。 「…(すご)いですね、たった十三歳で大学に入るなんて。」 「…別に馬鹿にしているわけではないのですが、ズトッス王国は昔気質というか、女性が働きにくいと聞いていたので、驚きました。」  昔気質って、あなた達の方がよっぽど昔気質じゃない?とティーザは思ったが黙っていた。確かにその通り、女性が働いて金を稼ぐのはあまり良しとされていない。理由は女が働くと男が怠けるからというが、本当にそれだけなのか疑わしい。  近くを馬車が通った。ゆっくり走って行く。ズトッス王国でも馬車はあるが、なんかこんなにのんきじゃない。  全体的に時間がゆっくり流れている気がする。本当に不思議だ。入国審査で驚いた機械のことがなければ、物凄く遅れていると思ってしまう。  そういえば、入国審査の手続きが終わった時、三人はそれぞれ不思議なブレスレットとペンダントを手渡された。スビンは最初からつけていた。彼は本当ならあんなに長い時間、入国審査をする必要が無いらしい。  それをずっとつけているように、ということだった。入浴の時などもずっとだ。面倒だと思わなくもなかったが、キラキラした特殊で色が綺麗な組紐を使った、ミサンガのようなブレスレットを見ていると、つけているのは苦痛ではなかった。だって、とても綺麗だし、とても軽い。  その後で、何か薬を飲むように言われて飲んだ。外国から病原菌を持ち込まないようにするためらしい。  それから、頭に機械をつけて不思議なベッドに寝た後、機械が回りを通って何かがあって、いつの間にか眠っていたら、(さわ)やかな香りで目を覚ました。ぐっすり眠った後のように体が軽かったが、実際には数分しか経っていなかった。機械をはずして部屋の外に出て、入国ができる。 「ここから一番、近い民警の事務所は薔薇(ばら)かどんぐりだな。」  薔薇とかどんぐりとかいう名前の付け方も、なんだか古風な印象を受ける。ランギークの言葉に対し、ベンスが口を開いた。 「どんぐりの方が良いんじゃないか。薔薇は少し高額だし。高価な貴重品を扱う場合に多い。」 「…でも、彼女達、高価な貴重品を持っている。」  確かにそうだった。母のペプリーナから父のボイグが譲り受けていた紫水晶のペンダントだ。 「どうしますか?少し値段は高めですが、高価な貴重品も預けられる方と、値段が手頃な方と。」 「値段が手頃な方の安全面はどうなんですか?」  レイラがすかさず尋ねた。 「安全面?」 「そこから、何か盗まれたりしたことってあるんですか?」  すると、ベンスとランギークは顔を見合わせた。 「…いや、ないと思いますが。」 「だったら、手頃な方でお願いします。」  レイラは素早く判断した。 「…大丈夫?」  思わずティーザは尋ねた。 「大丈夫でしょ。何も盗まれたことはないって言ってるし。見なさいよ。この治安の良さを。我らの祖国と比べて格段よ。きっと、手頃な値段でも祖国に行ったら、がっぽりお金を取られる金持ち用のガードと変わんないわよ。」  レイラの判断はもっともなように思えるが、預けるのはティーザの物だ。心配するティーザをアマンディアが振り返った。 「ティーザちゃん、レイラの言う通りよ。わたし、一年半住んでいたって話したでしょ。その頃に、ダイヤモンドのネックレスを公園のベンチに忘れたの。次の日になって気が付いて、公園のベンチに行ったら、まだあったわ。」 「……それなら、大丈夫そう。手頃な方でお願いします。」  なんというずぼらさだろう。ダイヤモンドのネックレスをどうして、公園のベンチに忘れたのだろうか。 「…ですが、それはあまり参考にはならないかと思います。たまたま盗まれなかっただけで。」  ランギークが急いで言う。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加