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「ティーザ!!やめなさい!」
珍しくアマンディアが大声を出した。いつも優しいアマンディアに怒鳴られて、ティーザは動揺してようやく、とりあえず口を閉じた。
パンッ。とその隙にレイラが、ティーザの頬をひっぱたいた。
「あんた、自分の今の姿が、どんななのか、分かってるの!?」
レイラに怒鳴られて、ティーザは睨み返す。
「何よ、知っているくせに、どうしてこんな人の味方するの!?父さまを殺したくせに、捕まらないでいるんだよ!仕返しして、何が悪いのよ!」
「あんた、自分が今、どんな顔して、どんな姿なのか、分かってるの?あんたが大嫌いだった、女学校時代の嫌な女とおんなじなんだよ!傲慢で偉そうで、人の話を聞かない!自分が世界で一番偉くて、自分が世界で一番正しい!自分が世界中で一番不幸な人間だって思い込んでる、悲劇のヒロインぶった、偉そうな女だよ!!」
レイラの言葉は正しくて辛辣だった。
「あんたが、嫌いで嫌いでたまらなかった女達にそっくり!口調から顔から何から何まで!」
ティーザが呆然として、レイラを見つめた。両目に涙が盛り上がる。
何も知らない第三者が見た時、人殺しとなじられたシャンズ達の方が、気の毒になってくる程ティーザの態度はひどかったのだ。
「それ!」
レイラはティーザが踏み潰した、お菓子の箱を指さした。
「最低よ、分かってる!?あんたは、この国の伝統文化を侮辱した!この程度のお菓子、高級でもない、そんなことをわめき散らしてね!本当にボイグさんの娘なの!?ボイグさんは、決してそんなことは言わなかったはずよ!」
「あ……。」
ティーザは急に自分が言ったことを思い出して恥ずかしくなった。慌てて箱から足をどけた時、何事かと遠巻きに見ている人達の中に、今日も街を案内してもらうために、約束していたベンスとランギークの姿が混じっていることに気がついた。
二人と目が合ったが、すっとそらされた。その時、ティーザはとんでもない過ちを犯したのだと、気がついた。このまま嫌われたくない、それなのに、もう時はすでに遅かった。
「あ……あの、わたし……。」
頭に血が上り、何も考えられなくなった。ただひたすら、父のボイグを殺したと思われるシャンズが憎かった。周りの人達に何と思われるかなんて、考えもしなかった。自分の溜飲を下げたかったし、仕返ししたかったのだ。自分が正義だと思っていたから、アマンディアもレイラも自分に味方してくれると思い込んでいた。
ティーザはおろおろと視線を彷徨わせたが、結局、うつむいた。本当はうつむいたら、地面の上で踏み潰したお菓子が眼に入るから、うつむきたくなかったが、周りの人達の視線が痛くて、うつむくしかなかった。
「これさ。」
シャンズがしゃがんで、袋ごと踏み潰されたお菓子の箱を拾い上げた。
「弟と妹が好きなんだ。割と日持ちがしてさ。帰る当日に買えば、家に着くまで持つんだよ。だから、いつもお土産に買ってるんだ。夏はさすがに無理だけど、冬ならもつから。
あんたが、何を好きか分からなかったから、弟達が好きな物を買った。」
ティーザは、シャンズに弟と妹がいると初めて知った。
「俺だって店を潰したくなかった。だって、店が潰れたら、どうやって食っていくんだよ。弟達を養っているのに。
それに、ボイグさんのことも好きだった。こんな俺をバーポさんが良い奴だからっていう、たったそれだけの紹介で雇ってくれた。一緒に買い付けにも連れて行ってくれた。恩を感じているから、その店が潰れて欲しくなかった。」
ティーザは顔を上げられなかった。またやってしまった。どうして、自分はこうやって感情のままに行動してしまうのだろう。まさか、シャンズにこんなことを言われるとは思わなかった。自分を信用させるためだと、皮肉に考えたがる自分がそんなことを囁こうとしたが、シャンズから悪意を感じなかった。
「……あの…わたし……。」
さすがのティーザも、謝った方がいいことくらいは分かっている。それに、レイラが言った通り、あんなに好きだったはずのサリカタ王国の文化を馬鹿にしていたのだ。
そのこと事態が恥ずかしかった。いつの間に、毒されていたのだろう。あんなに嫌いだったのに、もう、彼女達の真似はやめようと決心したはずだったのに、また、彼女達と同じようなことを言って、してしまっていた。
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