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「だ、か、ら、どこだって言ってんだよ。
俺は忙しいんだ。こんなわけの分からない場所で、暇つぶししてる時間なんてないんだよ」
掴みかかりそうな男を前にしても、その人はまったく動じていない。足元にいる猫も、のんびりとあくびをしている。
「何をそんなに慌てているんですか。時間はいくらでもありますよ。
もっとも、早く向こうに行ってもらわないと困るんです。手荒なことは好まないのですが、仕方ありませんね」
言うと、軽く右手を動かした。まるで、手だけで踊っているような優雅な動き。
次の瞬間、男は悲鳴を上げた。
「いてっ!
なんだよ、これ。痛いぞ。
俺を誰だと思ってんだ。痛い目に遭わされないうちに、さっさとこれを外せ。今すぐ外したら、今回だけは見逃してやる」
睨む男を完全に無視して、その人は周りにいる人たちへ穏やかに微笑んだ。不安を消すような笑みに、女性は一瞬見とれた。
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