エピソード1

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 「だ、か、ら、どこだって言ってんだよ。  俺は忙しいんだ。こんなわけの分からない場所で、暇つぶししてる時間なんてないんだよ」  (つか)みかかりそうな男を前にしても、その人はまったく動じていない。足元にいる猫も、のんびりとあくびをしている。  「何をそんなに慌てているんですか。時間はいくらでもありますよ。  もっとも、早く向こうに行ってもらわないと困るんです。手荒なことは好まないのですが、仕方ありませんね」  言うと、軽く右手を動かした。まるで、手だけで踊っているような優雅な動き。  次の瞬間、男は悲鳴を上げた。  「いてっ!  なんだよ、これ。痛いぞ。  俺を誰だと思ってんだ。痛い目に()わされないうちに、さっさとこれを外せ。今すぐ外したら、今回だけは見逃してやる」  (にら)む男を完全に無視して、その人は周りにいる人たちへ穏やかに微笑んだ。不安を消すような笑みに、女性は一瞬見とれた。
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