エピソード1

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 必死に記憶を探った女性は、そこまでは思い出せた。でも、そこから先がどうしても浮かんでこない。  もちろん、衝突したという記憶もなかった。  「記憶がなくても、貴女はここにいます。  ここが普通の場所でないのは分かりますよね」  女性は絶望的な気持ちで(うなづ)いた。  太陽も雲も何もない、赤い空。建物がまったく見えない広い大地も、赤く染まっている。  そして、流れも分からないほどの広い河……  日本ではないし、世界中でもこんな場所があると、女性は聞いたことがない。  「どうして、こんなことに……」  後悔に似た思いが浮かぶ。  (寝坊したのが悪かったの?  連絡してから、普段どおりに鉄道に乗れば良かったの?  それとも、(あきら)めて有休を取るべきだったの?)  変えられないと分かっても、女性は思わずにはいられなかった。
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