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(もう、何もできないの?
まだまだやりたいことも見たいものもあるのに……全部、もう駄目になったの?)
渡し守の足元にいた猫が、彼の肩に乗ると女性を見てきた。綺麗な金色の瞳が、泣きそうな女性の姿を映している。
そんな、涙目の女性を見て同情したのか、渡し守が慰める口調になった。
「貴女がこの場所に来ることになった原因の人間は、先程舟に乗せて送りました。
人として転生するのは……想像もできないほどの未来でしょうね。その時、ヒトがいるかは分かりませんけど」
急ぐと騒いでいた、あの男が……聞いた女性の心に、恨みとも憎しみともつかない感情が湧いてきた。
その時、女性の考えを読んだように、渡し守が声を掛けてきた。
「当然ですけど、その感情は忘れてください。
その代わり、向こう岸で恩恵を賜ることができるでしょう」
「恩恵?」
今さらもらっても、意味がないような気がした。
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