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ずっと斉藤さんでいいのに
「ずっと斉藤さんでいいのに…」
別れ際の彼女の最後の一言があばら骨の奥の左上にズキンと刺さった。
それは、彼女とのありふれた日常の繰り返しの終焉に至る当然の結果であった。お試し期間と称した「同棲生活」
昔の同棲とはちょっと違う。この冬を乗り越えたら「結び」の契りを交わすと約束した同棲。
「どうせ、うまくいかないさ」と斉藤さんは初めから言っていた。
「それでも、続ける」と私は誓った。
(ハイ、カット!)
監督「ちょっと違うなぁ。昔風になってる、昭和感が出過ぎじゃないか」
脚本家「では少し直します」
(シーン斎藤 TAKE2 すたーぁーと ハイ)
昔の同棲とは違う。わたしたちが試しているのは慟所為なの。
(カット、カット、カット#)
監督は怒る。
監督「大分、難しい演技したな。台詞が無い演技だけど、その表情は難し過ぎるよ」
俳優Aの斎藤さんはしばらく休憩する。
(シーン齋藤 TAKE3 すたーぁーと ハイ ヨイショ)
昔の同棲とは違う。わたしたちのスタイルは今流行しているこの本がバイブル。➡「ワンフォーオール オールフォーワン」
(カット、カット、カット#)
俳優Bの齋藤さん「すみません。また難しく演技してしまいました。英語で発音した方が良かったですか…」
監督「いや違う。示す矢印が太い」
-----暫時、休憩する-----
休憩時間中、監督と齊藤はお互い難しい顔をして議論している。
女優のわたしは、ずっと斉藤さんでいいのにと思う。
普通のありのままのいつもの斉藤さんの演技でいいのにと、今宵思う。
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