ずっとエレベーターの中でいいのに

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ずっとエレベーターの中でいいのに

わたしは、さっきマンションに辿り着き、オートロックを開けようとしたが、前行く住人がエントランスに入っていったので、後に付き入る。チラ見で見える宅配便のお兄さんの生真面目さに驚きながら。 「あんな重い荷物を抱えているだけに、わたしが入った後についてきてもいいのに…」 お兄さんは鍛えられた上腕二頭筋を見せびらかせもせず、配達先の部屋番号を片手押し、続いて呼び出しボタンを持ち手を替え押す動作を繰り返している。 わたしは、わざとエントランスで時間を潰して、お兄さんが運びくるのを待つ。 あっ 来た。 エレベーターの『開』ボタンを押して待つ。わたしって策士。 そして、エレベーターは動く。 爽やかな汗の香り、ちょっと荒めの呼吸、新目なルックス。 「このまま、ずっとエレベーターの中でいいのに…」 時間が数分止まったかのようなカノンが流れる♪ 「幸せ」を胸いっぱい感じる。「充実感も」 わたしは✕✕✕✕号室のお客さんにサインを貰い、お礼を言っている。 私「毎度ありがとうございました」 お兄さん「サンキュー」 私「家家 次いくよー」 これがわたしの指導の流儀。ずっとこうして家業のちっちゃな宅配業を続けて来たんだもん。 次の家の門を叩く…「ヤマ」・「川」 我流の仕事技は日々磨かれる。
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