第10話 全ての物語が繋がる時

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第10話 全ての物語が繋がる時

「アーーーーーッ!!」 薫と碧の部屋。 薫の訳の分からない叫びがこだまする。今まで彼女の奇行を見続けてきた碧であったが、今回に関しては少しというか・・・かなり分からない。 いつも余裕ぶっているあの薫が悶絶しているからである。 わーぉ、これは重症。といつぞやの薫の言葉をそっくりそのまま返してやりたい気分だ。 聞くのも面倒だが碧は一応彼女に尋ねた。 「・・・何してるの?」 「私、イライラして初音ちゃんに辛辣な言葉投げ続けたけど、本当に戻ってこなかったらどうしよう。私の初恋はここでジ・エンドなのぉぉぉ?」 碧は、そんな馬鹿な理由かとため息をつく。 「柄にもなく真剣に恋なんてするからよ。」 「私、抱いてきた女の子たちに“ひとめぼれです”って言われ続けてきたのに無下にしていたわ。マジ、ごめん。これから一人につき二回抱くことにする。」 「・・・・・・。」 心配した自分が馬鹿らしい。碧は目線を上にしながら呆れた。 「そんなに好かれたいなら、あの子の理想を演じてあげなさいよ。そうすればすぐ何でも言うこと聞くわよ。」 「嫌よ。私、あの子の理想という妄想で好かれたくないもの。私の真実の姿を究極の愛の形で愛されたいの。」 「何よ?究極の愛の形って。」 「それは・・・アレよ。初音ちゃんが教えてくれたのよ。あの子は完全に忘れているみたいだけれど。それも腹が立つ~~~っ!!」 「知らなかったけど、貴女の感情って忙しいのね。」 薫は『外科室』の本を取り出し不貞腐れたようにベッドに寝転ぶ。 「この本、教えてくれたの初音ちゃんじゃない!!こんなにヒントだしてるのになぜ思い出さない!!キーーーーッ!!」 「やだ、本当に重症。こんな理性の無くなり方する貴女って見ていてとても楽しいわ。人って恋するとこんなに不安定になるものなのね。笑える。」 「笑うな!!アーーーーッ!!早く想いを提出しに来なさいよ!!」 薫の荒れぶりは暫く収まらなかった。 「はぁ・・・。」 初音と絢の部屋。 初音は落ち込むばかり。最近どれだけ落ち込めば済むのだろう。 「どうしたの?初音。そんなため息ついて。って最近毎日よね。ということはどうせ、和泉先輩関係でしょ。」 絢の言葉を聞いて初音はさらに落ち込む。 「私、本当は和泉先輩のこと好きじゃなかったのかな。」 「え!?急にどうしたのよ??あんなに恋焦がれてたじゃない。あの本を抱きしめながら。」 「それは私の理想の王子様だった和泉先輩にね。本当の和泉先輩は意地悪なのよ。こんなの私の好きな和泉先輩なんかじゃない。」 「初音は本当にロマンチストなんだから。どんな和泉先輩ならよかったのか分からないけど。とりあえず早く寝た方がいいわよ。電気消すね。」 真っ暗になった部屋で、初音は悶々と考えだす。 人はやはり動物で暗いところが苦手みたいで、嫌なことばかり考えて初音は不安になる。 薫は何と言っていたか。 ”貴女、そうやって上部だけ見てる。美しい理想の私だけを見ている。意地悪なことをしたら受け入れない。意味も考えようともしない。” 美しい理想の和泉先輩。だから意地悪されるのは嫌だし、そもそも理想を壊されてこちらの方が傷心だ。意味って何?いつも意味が分からない。 ”貴女、私のこと本当に好きじゃないんだもの。なのに、好きって、私が酷いって、よく言えたものね。” 好きだから言っているのだ。 理想の和泉先輩が好きだから酷いことされたら嫌だもの。 理想の和泉先輩がどんどん崩れていくじゃない。 ”私、これだけ貴女に言っているのに。何もわかっていない。貴女には春琴の心は救えない。貴女、何も知らない。私が貴女を馬鹿にしているのじゃない。貴女が私を馬鹿にしているのよ。” 春琴の心は救えない。 それはそうよ。だって、私そんな和泉先輩好きじゃないもの。そんな覚悟できるわけがない。 馬鹿にしてる?それはそうよ。理想を崩すのだもの馬鹿にもしたくなる。 他に和泉はどうやって自分を騙してきたか。 不思議なことに嫌なことは連鎖して思い出す。 ”王子は探してくれるって。王子の好きな人は誰?魔法の馬車で帰って行ったお姫様。だからちゃんと私、探しにきたでしょ?” お姫さまっていまさら何よ、私をロマンチストだと思わないで。 ”ヒントその3。この本の筋書き。” ひとめぼれ?それは理想の先輩にね。 ”じゃあ、教えてよ。貴女は私がどんな人だったら良かったの?魔法を解くために私、できるだけ努力するから。” 言ってるはずよ。理想の王子様像を!理想の和泉先輩を!! ”真実の愛にたどり着いていないのは、私じゃない。貴女よ。私だけが貴方を愛していても、魔法は解けない。貴女、もっと落ち着いて物事を見るべきよ。” 酷いわ! 私の想いに対して先輩は何をしてきたの? 何をしてきたの・・・? ・・・初音は過去の記憶をゆっくりさかのぼっていく。 先輩、私を心配してくれていた。 好きって言ってくれた。 私も好きだから嬉しかった。 私の願いを聞いてくれた。ぎゅって抱きしめてくれた。 私が苦しんでいるとき、探しに来てくれた。 ひとめぼれ?あの和泉先輩が私を見ていたの?それを教えてくれた。 どんな人が良かった? 私が何を言っても先輩はいつも私を愛してくれている。 ”あのさ、初音ちゃん。貴女の思い描いてる王子って、今の私と変わらなくない?” 私、和泉先輩に何を求めてきたの? 理想だけ。理想だけ。理想の和泉先輩だけ。 ”貴女は理想が崩れれば崩れるほど惨めになっているのよね。でも、私それ以上に貴女たちが勝手に理想を描けば描かれるほど惨めなの。つまり、勝手に私の像を描かないでってこと。そんなことされたら私、無理しなきゃならないじゃない。そういうの嫌なの。” 私、先輩の嫌がることずっとしてたの? 酷い言葉を投げ続けてきて? 「私には何も見えていない。和泉先輩のこと見ようとしていない。本当の和泉先輩なんか愛してない。」 じゃあ、この気持ちを消せば。 できない。 「先輩は本当の姿で真実の気持ちを言い続けてきた。和泉先輩はずっと真実の愛を囁き続けていた。それが嬉しかった。だって私、和泉先輩が好きだもの。なのに私、何を見ていたんだろう。何を妄想していたの?さっきの自問自答、私、矛盾だらけ。矛盾ばかり。」 そして初音は再び、あの言葉を思い出す。 ”あのさ、初音ちゃん。貴女の思い描いてる王子って、今の私と変わらなくない?” 「何を見ていたの、私。本当の和泉先輩は最初から理想そのもの。私の理想、私が想い込みで勝手に捻じ曲げてる。理想という言葉だけが先走っている。そんな私の好きは真実のものじゃなかったのね。なのにそればかり言い続けていた。和泉先輩はいつもそれを諭していたのだわ。」 「ん~、初音。何一人でぶつぶつ言ってるの?うるさくて眠れないんだけど。」 絢が寝返りながら言うが、初音はそんなことお構いなし。 慌てて起き上がると服を着替える。そして、引き出しにしまっていた指輪を出してきた。 「私、行ってくる!!」 「はぁっ!?どこに行くの!?」 「お城!!お城に戻るわ!!」 初音は駆けだす。お城に向かって。 早くしないと野獣が死んでしまう。それまでに想いを伝えなければ。
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