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第14話 私の憧れの意地悪な先輩
「せ、先輩・・・その話は、本当なのですか?」
「もちろん!ノンフィクション!!」
薫が自信満々に言い切るものだから、初音は受け入れざるを得ない。
「あの、色々聞きたいことはたくさんあるのですが。」
「疑問を持つことは良いことよ。それを聞いてみるのはもっと良い。さすが主席。」
「とりあえず、先輩は私の名前知らないって言ってませんでした?」
すると、薫はウィンクをしながら初音の唇に人差し指を当てた。
「私、忘れっぽいし。何より、意地悪なの。」
「は、はぁ・・・。」
薫は、にこりと微笑むと初音の頭を撫でる。
だから、そういうところが意地悪で好きなのだ。
初音は、ぶうっと頬を膨らませた。
それを逃さず見た薫は、頬を突く。
「顔に出すのはやめない。そんな酷いことされたら私、泣いちゃう。」
「泣きたいのは私です。」
薫はぎゅっと初音を抱きしめる。
初音も珍しく抱きしめ返した。
今まで自分だけが、知りますまいと思っていた。
だか結果としては、こんな展開は知りますまいといったところであろうか。
初音は薫の胸に顔を埋めながら、尋ねる。愚問かもしれないが。
「先輩、究極の愛の形は見つかったのですか?」
すると、薫は初音をそっと離して額にキスをする。
「私、一人を愛するってわからなかった。みんなを平等に抱いて愛してあげる。そんな愛を振り撒いてた。博愛主義者なの。」
「それ、本当に博愛主義者っていうんですか?」
「それな!」
「・・・・・・。」
初音が白い目で見ると、薫はごほんと咳払いをして話を続ける。
「私、愛を知らないくせに、キスして抱けば愛だって思ってた。でも、違うのね。本当の愛ってもっと純粋で単純なものね。触れて欲しいのに、触れられない。見て欲しいのに、見られたくない。知って欲しいのに、言えない。言わなかったとしてもきっと通じ合えている。そんな愛もあるのね。それは愛の原点で何よりも尊い気持ちなのね。」
「先輩・・・。」
「だって、妄想のプロフェッショナル文豪たちはこぞってそういう話書いてるでしょ?妄想って彼らの理想なのよ。理想の愛は究極の愛。貴女の理想の私が究極だったように。私、そういう愛がしたかったんだわ。今、私そういうことできているかしら?時々、心配。」
「それ、私に聞きますか?」
「だって、初音ちゃんは妄想のプロフェッショナルだもの。」
「そういうところが意地悪なんです。」
「でも私のそういうところが大好きでしょ?」
「そういうところも意地悪です。」
「貴女、私に色々教えてくれた。だから、私も色々教えたい。貴女の知らないことを。」
薫はふふっと笑って、初音の輪郭をなぞる。
「だから、キスくらいはしても良いよね?良いよね?良いよね!?」
「え、それ聞かなくても今までたくさん・・・っ!?」
薫は初音に口付けるとそのまま押し倒した。
そのキスは今までで一番熱くて優しいキス。
いつもこんなふうにしてくれれば良いのに。薫とのキスの思い出は、いつも意地悪なものだったから。
「アーーーーーッ!滾る!!私の性欲が!非常に滾る!!」
「!?」
薫は起き上がると、手を握りしめワナワナと震える。そして首を高速で振り、もう一度初音にキスする。
「でも、耐える!!そういうのはもっと愛を育んでからするものね!!貴女とはそうしたいの。see you next week!」
「え、来週はするんですか!?」
「耐えるっていう意味よ、初音ちゃん。ちゃんと和訳して。」
「だから、間違った英語を使わないで。」
薫は、後ろから碧に頭を叩かれた。
「碧!!良いところなんだから帰ってこないでよ!!」
「遅すぎるのよ!私、することがなくなって帰ってきたの。ついでに貴女が暴走してないかも見にきたの。」
「酷い!人をケダモノみたいに!!」
「お詫びはキスでして。」
「もー。」
そういうと、薫はなんの躊躇いもなく碧にキスをした。
それを見て初音は呆然とする。何回呆然すれば良いのか。
「あの、先輩、その人とはどういう関係なんです・・・か?」
すると薫は堂々と胸を張って言う。
「どういう関係って、決まってるじゃない!セフレ!!」
「!!!!」
初音は薫のことを分かってはいるが、どういう人か重々理解しているつもりだが。人を馬鹿にするにも程がある。
いつもなら初音は泣きながらその場を去っていくのだが、今日ばかりは違う。
思いっきり薫の頬を叩いてやった。
そして、そのまま部屋を出る。
「え、私・・・何か酷いことした?嫌われちゃった?」
「酷いことしたし、嫌われたとも思う。」
「・・・だよね!?私もそう思う!!」
そして、薫も慌てて部屋を飛び出して初音を追った。
「意地悪なのは貴女よ!!初音ちゃん!!」
和泉薫は、意地悪だ。
どこまでも最低な人間だ。
でも、今はそれが理想の先輩だ。
初音が憧れて恋焦がれて止まない、大好きな先輩だ。
何をしても許す。
先輩は絶対に誰よりも自分を愛してくれていると知っているから。
「そんなにものめり込んでいるなんて・・・あなたは、私を知りますまい!」
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