腕のいい占い師

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 黒いコートの女性は、はっとした顔になって占い師を見た。 「……わかるんですか?」  わかるとも、悩みが一つもない人間なんてこの世にいないからね。  占い師は相手を見透かすように頷いて見せて、 「人間関係。――そうだろ?」  迷いなくそう告げると、女性は泣き出しそうな顔になって、ハンドバッグを胸に抱きしめた。  悩みなんて、突き詰めれば概ね人間関係に行き着くもんだ。仕事も金も、健康ですら。他人と比較するから悩みだす。  ここまでくれば、すぐ近くに構えている『占い師マリーの部屋』に連れ込むのは赤子の手を捻るようなものだった。  後は、いつものようにそれらしく姓名判断や水晶玉やタロットカードを小道具に、悩みを聞き出してやればいい。今日はオプションの数珠やパワーストーンもさばけるかも知れない。
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