腕のいい占い師

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 これまでの経験によれば、そろそろ『実は……』と、獲物の方から口火を切るころだ。誰かに話したくて仕方ない人間を選んでいるのだから。  ここでワンクッション置くのも効果的だ。  あえて、口を開きやすいように沈黙の時間を作ってやる。無理に聞き出そうとするより、よほど効果がある。  女性はテーブルの上の水晶玉を見るとはなしに見て、 「あとは……何が見えますか?」  占い師は何の変哲もない水晶玉をまじまじと見つめ、 「男には、家庭がある。違うかい?」  女性は打ちひしがれた顔をして、俯いた。バッグを抱き締める細い指が、白くなるほど力を込めている。 「ほんとに……何でも見えちゃうんですね。すごい……本物、なんですね」  手応えがあった。  占い師は赤い口紅が塗られた唇で笑んだ。  あとは、ちょっと叱って、大いに励まして、気の済むまで泣かせてやれば一丁上がりだ。これで、呑み屋のツケも払えるだろう。  ほくそ笑む占い師の前で、女性がゆっくりと顔を上げた。
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