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素早く女性の全身に視線を走らせる。鍛えられた観察眼が――女性のコートのベルトに引き付けられた。直感があった。
そう、ベルトによる絞殺だ!
他殺の方法も何らかの窒息死が最も多かったと昔ニュースか何かで聞いたはず。
仕事の技術と知識と確率が自分を救うのだ。
占い師は包み込むように悠然と笑って、口を開いた。
「首を、締めたのね……大丈夫、私は誰にも」
――だが、女性の顔は能面のように表情を無くした。
纏った黒いコートから、じわじわと何かが広がって、部屋に満ちる。
絶望と、壮絶な怒りと、止めどない殺意。
「あなたも、私を騙すのね」
女性は抱えていたハイブランドのハンドバッグに手を入れ、べっとりと血がこびりついた果物ナイフを取り出した。
占い師は恐怖で身が竦んだ。立ち上がれない。声も出せない。
得体の知れない化け物を目の前にしているかのように、その圧迫感で身動きができない。
こんな恐怖を間近にしたのは生まれて初めてだ。
ヒントはあったのに。
まだ季節には早い、真っ黒いロングコート。
返り血が目立たないための――。
女性が、一歩一歩近づいてくる。
声もなく見返す占い師が最期に考えたのは、これで呑み屋のツケは心配しなくてもいい、ということだった。
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