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わざわざ言葉にして約束した訳じゃない。
けれど、漠然と想像していた未来。
『三人でずっと一緒』なんて、そんな幼稚な幻想は、例え燈月が居なくならなかったとしても、あの日全て壊れてしまっていたのだ。
その事実に、再び世界が歪むような錯覚を起こす。
「私、次の日記には、そのことを書いて相談しようと思っていたの……でも、こんなことになって……」
「……。うん、そうだね……」
もし燈月が生きていたなら、初めての告白に浮かれる美織を、一緒になって喜んだに違いない。
三人だけの特別が壊れて寂しいなんて、そんな悲しい感情を表に出さずに、月のように裏側に隠して、燈のような温かさで照らす。彼女はそんな子だった。
燈月と美織のことは、何だってわかっていたつもりだった。
だって、誰より近くで、ずっと傍に居たのだから。
けれど私は、今の美織のことが、遠い存在のように思えてしまう。
私は燈月のことで頭が一杯だった。美織もそうだと思っていたのに、彼女の中には、燈月と、その見知らぬ美術部の先輩が恐らく今同じくらいの大きさで存在するのだ。
祝うべきことなのだろう。
けれど、何故だか勝手に裏切られたような気持ちになった。
羨ましいとかではない。美織が大人っぽくて優しくて女の子らしいのは十分過ぎるくらい知っていた。その先輩は見る目があると言える。
いつか誰かが結婚する未来があるのなら、その時は三人の中で美織が一番乗りだとも思っていた。
けれど、それとこれとは話が別だった。
私よりも美織のことを知らない、ぽっと出の男に大切な親友が取られそうになるのが悔しいのか、美織に燈月のことがあっても尚、色恋の話題に照れる心の余裕があることに戸惑っているのか。
この複雑な心境の答えは、自分でもわからなかった。
ただ何と無く置いていかれたような寂しさと、何でも知っていたはずの親友の知らない一面を垣間見て、私達三人だけだったはずの小さな世界はとうに拓けていて、美織は美織の、恋をするだけの時間を持っていたという気付き。
やはり燈月が居なくなって、世界は歪んでしまったのだろう。
ひとりだけ、とうに失った場所に取り残されたままの私には、もう何も分からなくなってしまった。
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