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交換日記でも度々イラストを描いていた、クラスで一番絵の上手い美織。
美術の得意な彼女の描く挿し絵は繊細で、贔屓目なしに素晴らしかった。
彼女は燈月と三人で居られたはずの未来を、紙の上に美しく織り成す。
春の桜並木、夏の海辺、秋の夕暮れ、冬の雪原、そのどれもが紙の上で現実のように息づいて、私達が望んだ未来の欠片を鮮明に閉じ込めていた。
燈月の好きだった白いワンピースは、風に揺れてその裾を四季の色に染め上げた。
私がそこに添えるために綴る文章は、今まで日記に書いて来たようなとりとめのない、ありふれた愛しい日々で。
けれどそこには、燈月を含めた私達三人を登場させた。
春には無事進級して、少しだけ大人になった燈月は、やっぱり遅刻癖が直らなくて。
今日もそのふわふわとした髪に桜の花弁を絡めながら、私達を追い掛けて春風と共に駆けて来たこと。
弟の龍介くんも同じ中学に入学して来て、お姉ちゃんぶっては思春期の弟に煙たがれるのだと唇を尖らせる燈月は、相変わらず子供っぽかったこと。
二年生になって、私達にもそれぞれ部活の後輩が出来て、私は文芸部、燈月は家庭科部での時間を持った。
美織は特に面倒見の良さから美術部の後輩に慕われて、皆のお姉さんになっていく。
少し寂しかったけれど、それでも変わらず私達のことを優先させてくれるのが嬉しくて、燈月と二人、つい甘えてしまうのだ。
夏休みには三笠家と当麻家、音更家のみんなで海水浴に行ったこと。家族ぐるみのお出掛けなんて小学生ぶりだった。
お葬式なんて経験していない私達は、その時久しぶりに龍介くんとも会って、その成長に驚く。
男の子は背が伸びるのも早い、記憶の中の彼はまだ私達より小さかったのに。
普段彼とはクラスメイトとしての距離感だった紡も「幼馴染みっぽいね」なんて、一緒の外出が嬉しそうだ。
私達はビーチバレーを楽しむけれど、特に運動の苦手な燈月はすぐに疲れて、一人砂の城を作って遊び始める。
最後には私達三人共参加して、三人で住む為のお城を建てた。
けれど波打ち際に作られたそれは、波にさらわれて、呆気なく崩れてしまった。
秋には学園祭がある。
神社でやる本格的な夏祭りとは違う、学生主体のチープな出店や展示。
けれど各クラスの自慢の味を食べ歩きして、何だかんだ日が暮れるまで楽しんだら、みんなで余韻に浸りながらの後片付け。
「終わっちゃったね」と残念そうに呟く燈月に、私達は「また来年もあるよ」なんて宥めながら、たくさんの段ボールや装飾のゴミを抱えて、すっかり歩き慣れた廊下を進む。
もう外から吹き込む風は冷たくて、落ち葉の匂いが鼻孔を擽り、何だか少しだけ物悲しくなる。
廊下の窓から差し込む、紅葉に似た鮮やかな茜色。
歩く度揺れる燈月のその色素の薄い髪の毛は、夕暮れに透かすと特別綺麗なことを、私達は誰よりも知っていた。
冬には、紡お手製のクリスマスプレゼントである色違いのマフラーをして、寒空の下で雪だるまを作る。
燈月は淡いピンク、美織は薄い紫色、私はミントグリーン。
それぞれの好きな色で、やっぱり好みは被らないけれど、最早それすら嬉しくなった。
親からは「風邪を引くよ」なんて注意されても、目の前の楽しさからは逃れられない。
踏み締める度に音を立てる雪道を散策して、足跡一つない綺麗な場所を見付けたら、私達は躊躇なくそこに飛び込んで一斉に両手をばたつかせる。
「冷たい」「寒い」と笑いながら雪まみれになって起き上がれば、地面に残った跡が天使の羽根に見えた。
雪原に残る三人の天使を、美織は買って貰ったばかりのスマホの待受にする。
私達がいつかスマホを手にしたら、その写真を送って貰うことにしよう。
消えてしまう雪も、忘れてしまう何気ない思い出も、何かしらの形で残して共有出来るなら、永遠だ。
私は日記を濡らしてしまわぬよう必死に涙を堪えながら、あったはずの三人の未来を綴る。
『燈月はもう居ない』
痛いくらいわかっているのに、彼女が存在する有り得ないはずの未来の空想も、こんなにもありありと浮かんだ。
真新しかった日記は、数々の未来の思い出で埋め尽くされた。
この日記の中で、確かに三笠燈月は、私達と共に生きていた。
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