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柔らかな心に受けた青春の傷は、直視するのも辛いくらい生々しくて、根が深い。
治し方だって、誰も教えてなんかくれない。
けれど、その傷に時間をかけて瘡蓋を張っていくことが、きっと大人になるということだ。
それがきっと正しくて、成長するのに必要な通過儀礼。
私達は傷を受けたのが早かったから、きっとその経験の分早く成熟して、大人になる。
だけど、そんなのは嫌だった。
だから私は、何度だって出来かけの瘡蓋を無理矢理剥がした。
忘れそうになる度に、過去になりそうになる度に、鮮明に胸の痛みを思い返して、傷を抉る。
痛みを伴うことで、かつて確かにそこにあった幸せな時間を刻むように留めようとした。
矛盾しているのは分かっていた、それでも、こうする他なかった。
どうしたって身体は成長するし、時計の針は止まらない。
周りの環境だって、否が応でも変わっていく。
けれど心だけは、燈月と共に、三人で過ごした少女の頃のままで居たかったのだ。
「燈月……一緒に、かえろう」
今度はもう、私は彼女を置いて行ったりしない。数え切れないくらい、痛みにそう誓った。
私はひとり、流れるような日々の合間を縫って、永遠に少女で在り続ける燈月を断片的に書き綴る。
きっと美織も、もう燈月すら、望んでいないであろう自己満足の行為。
それでも、やめることなんて出来なかった。
やめてしまったら、彼女は今度こそ、もう何処にも居なくなってしまう気がした。
だから私は、何年経っても、何度だって瘡蓋を剥がして、もう戻れないあの頃に心を沈めて、少女に還る。
彼女をもう、死なせたりしない。
世界が変わってしまっても、私達は、ずっと一緒だ。
あの日世界が歪んでしまったのなら、私も合わせて歪むしかなかった。
美織はきっと、歪んでしまった私とは違って、今は正しい世界で、正しく成長し生きている。
彼女はすぐに、大人になってしまうだろう。
三人の世界は、とっくにバラバラになってしまっていた。
それがいくら寂しくても、先に進む美織と、止まってしまった燈月と、立ち止まり続けたい私とでは、もう同じ世界を見ることは出来ない。
それはもう決して覆らないことを、連絡のないスマホを見る度に、心の何処かで理解していた。
だから、もがき縋るようにひとり綴り続けるこの日記は、歪な私だけの罪で、祈りで、秘密の贖罪だ。
『132』私達の、秘密の合言葉。
私は今日も、最早幻想でしかない何冊目かも分からない日記を、その合言葉と共に大切に閉じる。
燈月は、此処に居る。
これからも、ずっと一緒。
あの頃を、何度でもやり直そう。
私はもう、何も失わない。
鍵はあの頃と変わらない小さな音を立てて、燈月の欠片を、その中にそっと閉じ込めた。
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