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彼はフッと笑うと、続きの音をまた紡ぎ始めた。
歌詞などまだない、彼の柔らかな声だけの心地好い歌を。
右耳から滑らかに滑り込む音粒に、私は酔いしれた。
藍錆色の空を見ながら想像を巡らせる。
もし天の川が見えたら、それは五線譜。
そこに星が流れていたら、それは音符。
左側が欠けた細い三日月は、角度を変え伏せるようにして下に星をつければ、音楽記号のフェルマータになる。
そうしたら、彼の声を一秒でも長く聴いていられる……。
ふと、彼が声を飲み込むように歌が途切れる。
……あ、多分ここで1コーラス目が終わり。
バラードだから、間奏は切なげなギターが……
その音色を想像して目を閉じる。
また彼の唇から、続きの音が零れて来ると思ったその時、
彼は、まるで歌うように私にキスをした。
握りしめたジャングルジムの鉄棒がとても冷たく、その分、彼に触れている唇がとても熱く感じた。
「フェス、観に来て。この曲、仕上げて歌うから」
唇を離した後、呟くようにそう言うと、彼はジャングルジムから飛び降り、私を見上げて微笑みを浮かべた。
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