3.星とジャングルジム

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 彼はフッと笑うと、続きの音をまた紡ぎ始めた。 歌詞などまだない、彼の柔らかな声だけの心地好い歌を。  右耳から(なめ)らかに滑り込む音粒に、私は酔いしれた。  藍錆(あいさび)色の空を見ながら想像を巡らせる。  もし天の川が見えたら、それは五線譜。  そこに星が流れていたら、それは音符。  左側が欠けた細い三日月は、角度を変え伏せるようにして下に星をつければ、音楽記号のフェルマータになる。  そうしたら、彼の声を一秒でも長く聴いていられる……。  ふと、彼が声を飲み込むように歌が途切れる。  ……あ、多分ここで1コーラス目が終わり。 バラードだから、間奏は切なげなギターが…… その音色を想像して目を閉じる。  また彼の唇から、続きの音が(こぼ)れて来ると思ったその時、 彼は、まるで歌うように私にキスをした。  握りしめたジャングルジムの鉄棒がとても冷たく、その分、彼に触れている唇がとても熱く感じた。 「フェス、観に来て。この曲、仕上げて歌うから」  唇を離した後、呟くようにそう言うと、彼はジャングルジムから飛び降り、私を見上げて微笑みを浮かべた。
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