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灰色の雲が低く垂れ込めている空から、鼻先に小さな粒が落ちたと思ったら、瞬く間にベンチの上に水玉模様を作っていった。
「あっ、雨!」
「ホントだ! 家、近く?」
「はい、すぐ近くです」
ルナを抱き抱えながら、彼に答える。
「そっか、アルテミスにおやつありがと! アル、ちゃんと雨避けられるとこ行けよ」
私は笑って応えると、胸に抱いたルナの片手を持って、彼に「バイバイ」と言うように振ってみせた。
「ルナ、またな」
彼はクッと笑い、ルナに小さく手を振ると背を向けた。
私もルナを抱えて走り出す。
ふと背後で聞こえた声に振り返ると、彼も私と同じように走っているかと思いきや、大股で歩いていた。
ギターケースを肩に担いで、ブルーのデニムの色が変わって行くのも気にせず、雨粒を落とす空に向かって鼻歌を歌いながら……。
公園を囲む木の葉に落ちる音や、アスファルトを叩く音が、彼の鼻歌のバッグミュージックのようだった。
……タダで聴いちゃった……生歌。
雨に濡れた頬を緩めながら、私はまたルナを胸に抱いて家へと走った。
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