2.スターダム

1/3

30人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

2.スターダム

 それが彼との出会いだった。 いや、初めてちゃんと言葉を交わした……という意味での。  私は彼を知っていた。 同じ大学に通う、この辺りでは有名人の彼を。  入学したばかりの時、講義室の場所が分からず構内で迷っていた私を、二年生の彼が案内してくれた。  その頃、この界隈のライブハウスをいつも満員にしているバンドのボーカリストが、大学内に居ると聞いた。  私は自分ではピアノを少し(たしな)むくらいで、ロックには興味がなかった。 だから、ライブハウスには行った事もなかったし、噂を聞いても「へぇ……」という程度だったが、それがその時の彼だと、後で分かった。  彼が私とのそんな一瞬の出会いなど、覚えている筈もない。  公園で彼と会い暫くしてから、同じ学部の友人に誘われ、初めて彼のライブに足を運んだ。  あの雨の日に聴いた鼻歌が、楽器をバックに本気で歌うとどんな感じになるのか、興味があった。  それと、公園で猫の話をした彼がロックミュージシャンだという事も、私の頭の中では未だに結びつかないでいたから……。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加