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2.スターダム
それが彼との出会いだった。
いや、初めてちゃんと言葉を交わした……という意味での。
私は彼を知っていた。
同じ大学に通う、この辺りでは有名人の彼を。
入学したばかりの時、講義室の場所が分からず構内で迷っていた私を、二年生の彼が案内してくれた。
その頃、この界隈のライブハウスをいつも満員にしているバンドのボーカリストが、大学内に居ると聞いた。
私は自分ではピアノを少し嗜むくらいで、ロックには興味がなかった。
だから、ライブハウスには行った事もなかったし、噂を聞いても「へぇ……」という程度だったが、それがその時の彼だと、後で分かった。
彼が私とのそんな一瞬の出会いなど、覚えている筈もない。
公園で彼と会い暫くしてから、同じ学部の友人に誘われ、初めて彼のライブに足を運んだ。
あの雨の日に聴いた鼻歌が、楽器をバックに本気で歌うとどんな感じになるのか、興味があった。
それと、公園で猫の話をした彼がロックミュージシャンだという事も、私の頭の中では未だに結びつかないでいたから……。
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