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地下の薄暗い店内。
煙草とアルコールの匂い。
奇抜な髪型やファッションの人達が、大声で喋り笑っている。
まだ開演前、BGMにしては大音量で流れる曲。
普通の声の大きさでは会話もままならないのだから、大声になっても仕方ないのだろう。
ステージ左右には大きなスピーカー。
床を這う無数のコード。
ステージ上には、キーボードや沢山の音楽機材。マイクスタンド。
奥にはドラムセット。
照明や機材チェックにスタッフと思われる人達が右往左往していた。
初めて見る光景に私は目をパチパチさせながら、すぐ近くを動き回る人達から身を躱すように友人の後をついて行った。
「ね……これ、どこに座るの?」
ピアノの発表会やコンサート等で行ったホールとは全く違う。
ステージの前には椅子などなく、客達は立ったまま会話を交わしている。
「座らないよ。オールスタンディング。ライブ未経験者にはハードル高かったかなぁ……」
絶対無理だと思った。
帰りたい……とも思った。
なのに……。
ドラムスティックのカウントに続き、演奏が始まった途端、爆音に鼓膜がどうかなりそうな気がした。
……うるさい、無理……
周りを見れば、腕を突き上げ盛り上がる客達に囲まれていて……
逃げ出したいと思った。
けれど……
エレキギターの光り輝くような音色、
ドラムやベースが跳ねるように、けれど正確に刻むリズム、
奏でられる音と、長さの違う音符たちが、一つ一つ丁寧にコーティングされたかのような綺麗な音粒になって、耳から滑り込み、脳内へと広がっていく。
ロックなんてただうるさくて雑で、勢いだけで客を乗せるようなものだと思っていた。
全然違う……
そして、彼はステージのセンターに立ち、まるで猫を抱くように靭やかにマイクスタンドに腕を絡ませた。
流れを作る前髪の隙間、数秒だけ閉じた瞼を開けると、強い眼力で客席を見据えた。
そして身体中でリズムを刻む彼の唇から、その場を震わせるような、けれど丁寧な一音が紡ぎ出された。
もう後は、ただ飲み込まれていた。
彼らの、大胆で、繊細で、どうしようもなく心を震わせる音楽に。
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