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3.星とジャングルジム
甘ったるい夏の夜風を浴びながら、私はあの公園に向かっていた。
ルナの行き先はもう決まってる。
しかし、いつも彼の姿はなかった。
全国をライブツアーで回っているらしいし、もう近くに住んでもいないのかも知れない。
入口に差し掛かった時、暗く低い空に、小さな赤い星を見つけた。
近づいて行くと、ジャングルジムの上辺りで、その赤星は点いたり消えたりをゆっくり繰り返していた。
……星というより、ビルの航空障害灯みたい……
そう思いながらさらに近づいて行くと、暗闇の中、彼がジャングルジムの天辺に座り、煙草をふかしていた。
私は久しぶりに会えた喜びを抑えつつ、彼に近付いていく。
「いいんですか? ボーカリストが煙草なんて……」
「あ……来ると思って待ってた。ルナ居るからさ……」
彼が指差した先のベンチの上で、ルナとアルテミスが仲良さそうに身を寄せ合い毛繕いをしていた。
「ここ、来る? 星が近くで見えるよ。……なんつって」
彼は夜空を仰ぐと人懐っこい笑顔を向け、迷っている私に手招きをした。
「ほら、おいで」
「ジャングルジムなんて、何年振り……」
照れ隠しにそう言いながら、ひんやりとした鉄棒を握り登って行くと、彼の隣に座る。
地上からたった数メートル高いだけなのに、ジャングルジムの天辺は、いつも見る景色と何だか違っていて、頬を撫でていく風も心地好く感じた。
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