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「久し振りですね。バンド、凄いことになってますね」
私はこの日初めて、彼の音楽活動に触れた。
「あぁ……有難いんだけど、自分でもよく分かんね……」
描いた夢が叶い、それがどんどん広がって行き、自分の目の届かない所まで行ってしまうと、人は戸惑ってしまうのだろうか……
彼のぼそりと呟いた声や表情に、そんなことを感じてしまった。
「明後日、アメリカに行くんだ。恵まれた環境の中で、レコーディングさせて貰えるらしい。
それが終わって日本に戻ったら、目標にしてた夏フェスのセンターステージに出られる事になってる」
彼は嬉しそうに、けれど、少しだけ寂しそうな笑顔でそう言った。
「すごーい! 順風満帆じゃないですか」
「うん、そうだね……」
彼らの音楽が認められた事は素直に嬉しい。
けれど彼は、どんどん遠い人になっていく……
私が彼に抱いている感情が恋なのかどうなのか、考えないようにして来た。
もう彼は手の届かない人だと思ったから……。
少しの沈黙の後、スッと息を吸った彼の唇から、1フレーズだけ歌が零れた。
「新曲ですか?」
実はあれから私は、彼のバンドの曲は全部聴き漁った。
知らない曲などもうない。
「うん……。今、星みたいに降って来た」
「キザですね。嘘です、流石プロですよね」
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