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第4話
ドアに付いているストッパーを固定して、ドアが閉まらないようにした。
35年余り生きているが、他人の家に無断で入るのは初めてだ。
だから、それが正しいか分からない。
年に何度かは訪れていた家だから、勝手は分かっている。
玄関のたたきで靴を脱いで、廊下と呼ぶには短い、2畳ほどのフローリングの床にあがる。
右手にお手洗い、左手に脱衣室、浴室がある。
正面には、すりガラス入りの引き戸がある。
その向こうはリビングだ。
一応引き戸もノックして開ける。
部屋の真ん中に鎮座するソファに、もたれかかるように地べたに座っていた文さんが、引き戸を開けた俺を、仰ぎ見た。
「ああ、ごめんね。加寿さんの声は聞こえていたのだけど、なんか立ち上がれなくって」
特に俺の姿に驚いた様子もなく、文さんは、自分の言葉に似つかわしい力の無い声で、俺に言い訳をした。
匂いの割に、部屋の床がきれいだった。
掃除ロボットのせいだろう。
いまは文さんと同様、大人しく、部屋の隅にある。
ソファの前にあるテーブルの上には、マグカップやペットボトルが何個も乗っていた。
食べ物が入っていた形跡のある皿や袋はない。
この1週間、文さんは飲み物しか口にしていないようだ。
文さんは、たかが1週間で、1週間前より明らかに痩せている。
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