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第6話
冷蔵庫を開けると、中にはペットボトルのミネラルウォーターと、調味料類しか入っていなかった。
親友である才知が亡くなる数日前から、文さんは才知の入院する病院に泊まっていたから、その前に食材を始末したのだろう。
才知が亡くなってから、食材を調理したり処分したり出来る様子ではない。
俺はシンク下の収納から包丁を取り出して、買ってきたサンドウィッチを更に4つの小さな三角形に切り分けた。
それぞれに楊枝を刺し、食器棚から出した平皿にのせる。
電気ケトルで沸かした湯をマグカップに注ぎ、サンドウィッチを買った時におまけでもらったティーバッグのハーブティーを淹れる。
リビングのテーブルの上を片して、文さんの前に平皿とマグカップを置いてから、テーブルを挟んで文さんの正面に座った。
「これ、職場の女性がよくランチで利用するサンドウィッチ屋さんのだよ、人気の店なんだ」
「へえ」
文さんはソファにもたれかかるのはやめて、背を丸めながらも、テーブルを挟んで座った俺の方を向いた。
「美味しそうでしょ、食べて」
「加寿さんの夕ご飯じゃないの」
「文さんへの手土産だよ」
「才知さんにあげないと」
才知が亡くなったばかりだというのに、俺は供えるという行為を思い付かなかった。
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