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第7話
まだ、才知が仏様になったという実感がないというのもあるが、それより文さんのことが気掛かりだった。
「じゃあみんなで食べよう」
俺はキッチンから小皿を持ってきて、平皿から野菜と果物のサンドウィッチをひと切れずつ、取り分けた。
才知がいつも座っていた位置の、ソファの座面に、ずっしりとした金属の箱があった。
たぶん骨壷だ。
骨壷を包む骨覆いもない。
シンプルというかスマートというか、当世風なのだろう。
才知が眠るには、従来の陶器の骨壷より、才知にふさわしい気がした。
そして、その骨壷は、ほこりを被っていなかった。
その骨壷の前のテーブルに、小皿を置いた。
文さんはぼんやりと、俺のその動作を眺めていた。
「さあ文さんも一緒に食べて」
文さんは才知の前の小皿を見てから、自分の前に置かれたサンドウィッチを見て、頷いた。
刺さっている楊枝を指でつまんで持ち上げて、果物が挟んである方のサンドウィッチの角を噛んだ。
端から生クリームや果物がはみ出したり、落ちたりしたが、文さんはそれでも一所懸命たべようとしているように見えたので、俺は黙って口出ししなかった。
野菜の方のサンドウィッチもひと切れ食べて、文さんは声を出さずに、ごちそうさまでした、と唇を動かした。
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