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第37話 襲われる私
23時―
「ふぅ〜…今夜も沢山働いて疲れたわ…」
寝る準備を終え、安眠効果のあるハーブティーを飲みながらため息をついた。
それにしてもジルベールがあの後、ワインが無いと言って騒ぎを起こさなかっただろうか…?
「や、やだ!私ったらなんでジルベールの事を思い出さなくちゃならないの?ただでさえ、今日は振り回されっぱなしの1日だったのに…!こんなんじゃ夢見が悪くなるわ」
ブンブン頭を振りながら私はジルベールの事を頭から追い払った。それにしてもフレデリックがまだ戻って来ない。
「フレデリック…ひょっとして手間取っているのかしら…」
いつも隣にいたフレデリックが1日いないだけで、私は胸に寂しさを抱えていた。
「早く帰って来てくれないかしら…」
カチャリとティーカップを置いた時―。
コンコン
部屋の扉がノックされた。もしかしてフレデリック?!
「はーい。誰かしら?」
扉に向かって声を掛ける。
「僕だよ、ジルベールだよ」
「え…?」
たちまち表情がこわばる。一体こんな遅い時間に今度は何の用事があるのだろう?
「ねぇ、疲れてるのよ。明日にしてくれないかしら?」
扉越しに言うとジルベールの声が再び聞こえてくる。
「そんな事言わないでよ。大事な話があるんだよ」
大事な話…。どうせくだらない話に決まっているが、開けなければいつまでたっても扉の前で粘られそうだ。
「仕方ないわね…」
立ち上がって扉を開けると、案の定見たくもないジルベールが立っている。
「ありがとう、開けてくれて。中へ入らせてもらうね」
「え?ちょ、ちょっと…」
しかし、ジルベールは止める間もなくスルリと部屋の中へ入ると扉を閉めてしまった。
「ちょっと!何するのよ!大体何しに来たのよ?!」
するとジルベールは笑みを浮かべて言った。
「何しに来たって?そんなの決まってるじゃないか。僕達は夫婦なんだから一緒に寝るのは当然だろう?」
「…は?」
私は耳を疑った。一体今更ジルベールは何を言い出すのだろう?私の存在を無視し、堂々と愛人を囲っていたくせに。
「ふざけないでよ、私は疲れているんだから休みたいのよ。早く出ていって頂戴」
「だったら、肩でも揉んであげようか?」
「結構よ」
ジルベールになんて指1本触れられたくない。
「そう?それじゃ用事が済んだら休ませて上げるよ」
「用事…?」
首を傾げた時、突然ジルベールに抱き上げられた。
「ちょ!ちょっと!何するのよっ!降ろしなさいってばっ!」
ジルベールの腕の中で必死にジタバタと暴れるも、少しも動じる様子がなく私を運んでゆく。
「ほらほら、暴れないでよ。落ちたら危ないよ?」
「わたしをどうするつもりよっ!」
ジルベールの腕の中で抗議すると彼は言った。
「どうする?夫婦が寝室でする事と言ったら一つしか無いじゃないか」
「え…?」
その言葉に背筋がゾワリとする。
ま、まさか…?
次の瞬間、ボスンとスプリングの効いたベッドの上に寝かされ、逃げられないように両手首を掴まれた。
「な、何するのよっ!離しなさい!」
必死で腕を動かそうとしてもジルベールの腕は全く振りほどけない。何てこと…甘かった。男のくせにナヨナヨしているから油断していた。けれどやっぱりジルベールは男なのだ。力の差は歴然としていた。
「うん、今迄の僕はイザベラにしか目がいっていなかったから気づかなかったけど…リディアって美人だったんだね。この栗毛色のふわふわした長い髪も、碧眼の瞳も。今までごめんね。もうこれからは君だけを愛するって誓うよ」
ジルベールはうっとりした目つきで私を見ている。その視線に鳥肌が立つ。
「ふ、ふざけた事言わないでよっ!愛してくれなくて結構よっ!こっちだって愛してなんかいないんだからっ!」
なのにジルベールは私の訴えなど聞きもしない。
「さて、それじゃ早速始めようか?」
は、始めるって…?
ニッコリ笑みを浮かべたジルベールが次の瞬間私の上に覆いかぶさり、胸元のリボンをシュルリとほどき始めた。
「や、やめてよっ!だ、誰かっ!フレデリックーッ!!」
思わず叫んだ時―。
バンッ!!
突如部屋の扉が蹴破られた。
「えっ?!」
ジルベールが驚いたように振り向き、悲鳴をあげる。
「うわああっ!な、なんだよっ!」
私も慌てて起き上がると、そこには怒りの表情を浮かべてドアを蹴破った姿勢のままのセイラと、背後には息を切らせたフレデリックが立っていた―。
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