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第3話
私のことが好き? そんな素振りなど今までひとつも見せなかったのに、何を突然。美月は家路を駆けながら、耀のことを考えていた。隣同士に住んでいて親同士も仲が良く、産まれた日も近い。だから自然と兄弟のように育ったふたり。
幼い頃はいつも手を繋いで歩き、少し大きくなってからは泥だらけになりながら野を駆け、日が暮れるまで遊んだものだ。いつしか壁ができて共に過ごすことはなくなったが、異性であることを意識する歳になれば、当然のこと。
確かに小さい頃には互いに『いつか結婚するの』なんて言っていたものだから、近頃は周りの人間には『いつ付き合うの』などとからかわれていた。しかし、その度に耀は必死に否定していたし、美月だってそう。
唐突に告白されるなんてあまりにも不自然だ。そこで美月はある可能性に思いいたる。きっと耀も自分と同じように流星に記憶を運ばれ、その通りに行動したのではと。
「じゃないと、おかしい。私を好きになるはずがない」
私はあんなものを見るまで、耀のことを意識したことなんかなかったんだから。美月は心の中だけで言うと自室に駆け込み、ベッドに飛び込んだ。荒くなった息を整えながら枕に顔を埋めると、唇を重ね、身体を繋げた記憶が鮮明に浮かんでくる。たまらなくなった美月は両足をばたつかせた。
「ああもう! なんなのこれ!!」
実際にそんな経験があるわけではないのに、あまりにも生々しい記憶。それにどこかの知らない人間ならいざ知らず、相手は姿形は変わっているとはいえ隣の家に住む耀だ。ひとしきり枕を叩いた美月は普段よりもはるかに速く打つ胸を押さえる。耳だって焼けるように熱い。
気にしちゃいけない、だって今は違う人間なんだからと、美月は首を振る。魂は同じなのかもしれないが、今は互いに姿形も違う。心だって別のはず。だから好きになる必要はない。
「でも、振るにしたってちょっと酷い言い方だったかも」
告白の前に見せられた耀の思い詰めた顔がよぎり、美月は冷静さを取り戻した。罪悪感に胸を潰されそうになる。どちらにしても、逃げたことは謝らなければならない。明日きちんと話をしよう、そう腹をくくった。
◆
翌日、美月と耀は学校の屋上にいた。雲ひとつない空とは対照的に、ふたりは曇った顔で向かい合う。
「昨日は逃げてごめん。でも耀のことはそういうふうに見られないかな」
「わかった」
二度目の拒絶を受ける形となった耀は、絞り出すようにつぶやいてうつむいた。
「でもどうして突然、告白なんて。だって今までずっと」
「突然じゃない。ずっと前から言いたかった。きっかけは恥ずかしくて言えないけど」
真っ赤になってうつむいた耀を見て、美月は確信する。やっぱりそうだ。きっと前世の記憶に引っ張られているだけ。美月だってそんなものを思い出してしまったことなんて、恥ずかしくて言えたものではない。耀はためらいがちに口を開く。
「手を握ってもいいか。それで諦めるから」
底抜けに明るい彼らしくない、切なそうな表情に面食らった美月は、そのくらいならと願いを受け入れた。小さい頃はよく手を繋いで歩いていたので、さほど抵抗がなかったのもある。
差し出した手をうやうやしく受け取られ、そっと壊れ物でも扱うように握り込まれる。微かに震えていて熱い手のひらは、離れていた間にすっかり大きくなって、美月の手をすっぽり隠してしまう。
「なんか、ちっちゃくなったな」
「あんたが私以上に大きくなっただけ」
「ああ、そっか」
自分の手を握った耀が幸せそうに顔を綻ばせている。そのことに気づいた美月の喉元がきゅっと締まった。胸にあふれるあたたかい気持ちは、このまま離れてしまうのが名残惜しいと感じる気持ちは、どちらの私のものなのだろうか?
「わがまま聞いてくれて、ありがとうな」
手が離れる瞬間、かつての別れの時と同じ痛みが胸をはしった。痛い、寂しい。行かないで欲しい。単に記憶に振り回されているだけかもしれないが、これで最後にして本当に後悔しないか。美月は一瞬だけ考え、そして。
「待って!」
去っていこうとした耀を呼び止めた。
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