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春の雪(ホワイト・デー)
3月14日、春なのに東京では珍しく雪が降った。
夜の7時半過ぎ、僕は商店街の中程にある小さな花屋に寄った。
僕の姿を認め、惠理佳が声を掛けてきた。
「あら、達ちゃん、久しぶり。1ヶ月ぶりぐらい?」
「相変わらず、ヒマそうだな」
一応、悪態をついたが、この花屋は結構流行っている。ただ、昔ながらの商店街なので、夕食用の買い物が済む夜の7時頃には人通りが少なくなる。
惠理佳はこの花屋の店長(兼、店員)だ。そして、幼なじみでもある
「達ちゃん、来てくれないと潰れちゃうよ。前は良く来てくれたのに」あまり多くを買えない僕の来店など、経営に影響は無いだろうに惠理佳はそう言った。
「悪い、悪い。少し忙しくて」
「稽古? 公演が近いの?」
「うん」僕は嘘をついた。
最近はバイトの割合が多くなり、劇団の稽古はサボりがちだった。
僕も、もう28歳だし、そろそろ潮時だという思いもあり、かといって真剣に就職先を探すわけでも無く、全てに中途半端な気持だった。
「春の花を見繕ってくれないか?」
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