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吉見がヤスリの形をした電動ドリルを手にしたのを見て、私は目を剥いた。もはや吉見が何をしようとしているのか明らかだった。
涙と鼻水にまみれて必死に身をよじる私の耳元に、吉見が顔を寄せる。
「なあ、この世界は糞みたいにバグった平行世界だ。どいうわけか、俺はこの間違った平行世界に紛れ込んでしまったらしい。俺は帰らないといけない。俺の才能を正当に評価し、称賛を与えてくれる本来の世界に。だから俺はこの画期的な脳移植術を必ず成功させなくちゃならない」
く、狂ってる……この人の脳は完全に壊れてる…
突然、胸ポケットのスマホが振動する。数回の呼び出し音の後、留守録機能に切り替わる。発信者が留守番電話に吹き込む声がはっきりと聞こえた。
『鈴木様、ご紹介させていただきましたお相手はいかがでしたか? きっとご満足いただけたものと確信しております。何せ、当社のマッチングプログラムが算出したお二人の幸福予想は94%! お二人ほどの似た者同士はいませんよ』
私は刹那的に理解する。
マッチングプログラムは利用者のプロフィールの詳細から、隠された本質を抽出する。そして本質が似通っている者同士を結びつけていたのだ。
そして虚構の世界に生きているという共通項を持つ私たちが選ばれた。
全然、満足してないし、幸福からほど遠いんですけど!?
こんな問題だらけのサービス……SNSで拡散して絶対に炎上させてやる!
私は胸に決意したが、電動ドリルが頭蓋を砕く音が聞こえたので、SNSは卒業することにした。
END
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