吾輩は犬である

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 西暦二千九十二年の別のある日。時間旅行局歴史矯正部の一室。 「二十万年前の時代に潜伏していたんだな」  上司が部下の局員に聞いた。 「はい、そうです。男女の二人組でした。そいつらは家を作り、畑を耕し、家畜も飼っていました。旅行ではなく居住するというのは、時間旅行規則違反です」 「それも悪質な違反だ」 「二人は自分たちの農場をエデンの園と呼んでいました」 「エデンの園? アダムとイブになったつもりか」  上司は皮肉ったつもりだったが、部下は真顔で答えた。 「どうも、そのようですね。ホモサピエンスの先祖は彼らのようなんです。でも、ご心配なく。すでに歴史はもとに戻しましたから」    西暦二千二十二年の別のある日。  休日の繁華街を一組のカップルが歩いている。 「どこに行こう」  男が女に尋ねた。 「うーん、そうね」と女はちょっと考えて、「映画にでも行こうか」 「何か見たいものある?」 「今、何か面白い映画やってるかなあ」 「よく分からないから、シネコンに行って決めようか」 二人はシネコンが入っている商業ビルへ足を向けた。  シネコンはビルの八階にあった。ロビーの壁には上映中の映画ポスターが並んで貼られている。 「どれが面白そうかな」と、二人はポスターを眺めながら移動する。 「あっ、これ面白そう」  女が一枚のポスターを指差した。 「『猿の惑星』か、面白そうだな」  そう言った男の体は消えようとしていた。
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