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序章
目元に、何かが染みて我に返った。
夢うつつで、ぼんやりとしていた目の前が、突然晴れる。
驚いた男の顔があった。
優しい顔立ちのその男が、手にしていた布を下ろし、見返してくる。
「……見えるか?」
探るように問い、すぐに首を振る。
「あー言葉が、分からないか。確か、あの辺りは……」
言い直そうとする男の前で、何とか首を動かした。
「……」
何故か目を見張った男が、一瞬目を泳がせて再び尋ねる。
「見える、か? どこか、痛い所は?」
その言葉は先程と違う国の言葉だったが、それに気づかずにゆっくりと首を振ると、男は微笑んで頷いた。
「良かった。ひどい目に合ったな。まだ細くて動きづらいだろうが、少しずつ焦らずに、元気になろうな」
頭を撫でて、衣服を羽織らせてくれる男を見ながら、思い出した。
どうやら、あの城から抜け出せたらしい。
正しく言うならば、男が助け出してくれた、と言う所のようだ。
「……」
あんな所にいた瀕死の子供を、何故助けようと考えたのだろう。
死から這い上がってきた少年の物語は、ここから再び動き出した。
本人の意思には、全く添わぬ形で。
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