第二章 加速

4/31
前へ
/54ページ
次へ
 朝比奈が肩に手を回してくると、陽太は鬱陶しく思いながら細めた目で朝比奈を見る。それから視線を反らして、閉じたパソコンをじっと眺めた。瑞穂のことを思い出す。たった一度しか会っていないが、顔は鮮明に覚えてしまった。声も雰囲気も何もかも鮮烈に覚えている。あの時感じた電気が走ったような衝撃。時間が一瞬止まった、と表現しても良いかもしれない。あれは間違いなく、一目惚れした瞬間だった。 「……惚れた」 「え、まじで!? 惚れたの!? 一目惚れ!?」 「馬鹿、五月蠅いッ!」  陽太は朝比奈の口に手を当てると、驚きのあまり立ち上がった朝比奈を強制的に座らせる。何事かと昼を食べ終え、残った昼休憩の時間を持て余している仲間たちがこちらを見た。陽太はそいつらに小さく謝ると、陽太の頬をつねった。 「痛っ」 「五月蠅いんだよ、お前は。もう少し声を抑えろ」 「ごめん、ごめんって」  陽太は朝比奈の頬から手を離すと、はぁっと溜息を吐く。 「恋煩い?」 「お前に呆れての溜息だよ」  朝比奈はけらけら笑うと、陽太はそのマイペースぶりにまた溜息を吐いた。 「よし、じゃあ親友として刈部の恋の手助けをしてやろう」 「いいよ別に。俺、間中さんとお近づきになろうとか思ってないから」 「何で!? せっかくの恋を。しかも一目惚れを!」 「だから五月蠅いんだよッ!!」  口を急いで塞ぐと、また辺りに引きつった笑みで謝る。それから朝比奈に向かって睨みを利かせた。 「普通、そこは付き合いたいとかなるだろ」 「あのなぁ……一目惚れって嬉しくないだろ」 「は? 言ってる意味が分かんないんだけど。俺、一目惚れされたら超嬉しいよ。舞い上がっちゃうよ」 「朝比奈はな。いいか、一目惚れっていうのはなんだよ」  朝比奈が眉間に皺を寄せてきょとんとした顔を作ると、陽太はテレビで得た知識を披露する。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加