第二章 加速

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◇ 「えー、着いてっちゃダメ? 俺も間中さん見たいんだけどー」 「ダメに決まってるだろ。さっさと帰れ」  追いやるように朝比奈をあしらうと、会社を出て別れた。陽太はお礼の品を持ちながら瑞穂が働く花屋を目指す。  瑞穂と付き合いたいという願望は勿論ある。一目惚れしたんだ。それ以降、ずっと瑞穂のことで頭がいっぱいだし、そういう願望が生まれる。でも反面、こんな始まり方でいいのかという堅物な考えを持つ自分がいる。朝比奈が言ったように、一目惚れの理由には本能的に好きになるという説がある。だがしかし、陽太が言ったように外面が好みで内面も好みであると妄想してしまう、所謂外面に惚れたからという説もあるのだ。  自動ドアが開き花屋に入ると「いらっしゃいませー」という声が聞こえてくる。中はそろそろ閉店する時間だからか、誰もおらず閑散としていた。 「あれ、君……」  丸い黒縁メガネをかけた男が出てくると、陽太は誰だか分からず取り合えず会釈する。 「間中さんだよね。ちょっと待ってね」  そう言って「間中さーん」と呼ぶと、奥にいた瑞穂が明るい声で返事をして出てくる。陽太と目が合うと会釈をした。 「こんばんは」  瑞穂がそう言うと、陽太も「こんばんは」と返す。 「その後体調いかがですか?」 「絶好調です。間中さんのお陰ですね」 「そんなことないですよ」  瑞穂が微笑を浮かべると、陽太は手に提げていたお礼の品を瑞穂に渡す。 「これ、お礼です。気に入っていただけたら嬉しいのですが」 「ありがとうございます」  瑞穂は受け取ると、「中見てもいいですか?」と目を輝かせながら言う。陽太が頷くと、瑞穂は嬉しそうに中を見た。 「ラスク……」 「会社の女性社員に聞いて、最近流行っているお菓子がこの会社のラスクだったので……好きじゃありませんでしたか?」
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