第二章 加速

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「怖いですね」 「そうなんですよ」  瑞穂が穏やかに笑うと、ゴーンゴーンと時計が鳴る音が聞こえる。気づけば閉店時間の19時になっていた。周りにいた店長含む店員たちが、閉店の作業に入る。 「あ、じゃあ俺はこれで。本当にありがとうございました」 「こちらこそ、ラスクありがとうございます。美味しく頂きますね」 「ありがとうございます! また来てください!」  大人しく笑う瑞穂とは対照的に、諏訪がニコニコしながら陽太を見送る。陽太は会釈をすると、閉店の作業を邪魔しないようにそそくさと外に出た。振り返って中を見ると、瑞穂が笑顔でお辞儀している。陽太もお辞儀する。ぶわーっと全身が熱くなるのが分かった。夏の暑さのせいじゃない。これは多分、別の暑さ。 「好きだなぁ……」  ハッとなって、無意識に言った言葉に口を塞ぐ。すぐにその場から駅に向かって歩き始め、自分の考えを整理した。今、何て言った? 少し歩いたところで足を止めると、頬が真っ赤になっているのが鏡を見ずとも分かった。  一目惚れは錯覚。でも本能的に好きだと感じて恋に落ちることも一目惚れと言う。この一目惚れは、果たしてどちらだろうか。この感情が錯覚だと、言えるだろうか。 『その感情を大事にしなさいよ』  朝比奈が言った言葉が蘇る。この気持ちを大事にする。大事にするって何をすればいいのだろう。恋なんてしばらくしてなかったから、やり方もすっかり忘れていた。前に彼女ができたのは大学生の時、しかも前半の時期だ。その時もあっさりフラれて、彼女を好きだったかどうかも定かではない。恋した時ってどうすればいいのだろう。  陽太はポケットからスマホを取り出すと、チャットを開く。そこから朝比奈のアカウントを探して、電話をかけた。何回かコール音が鳴るかと思ったが、一コール目ですぐに朝比奈が出る。
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