第一章 一瞬

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 じりじりと嫌気が差すくらいの太陽の照りに、全員が汗を額から滲みだしていた。女子高生はメイクを気にし、マダムたちは日傘を差しながらオシャレなハンカチで汗を拭い取っている。スーツを着たサラリーマンたちは、こんな暑くて死にそうな日にも必死になって営業に回っていた。  刈部(かりべ)陽太(ようた)もその一人だった。全身暑苦しいスーツを着ながら重たい荷物を持ち、営業先を駆けまわっている。新卒で入社し、最初に派遣されたのは施工管理部だった。陽太が希望した営業部とは程遠い部署だ。だがそこから二年が経ち、やっと春の人事異動で営業部に配属された。それから数ヶ月、まだまだ夏を忘れることのない九月は死ぬほど暑い。残暑というやつだ。本当に止めてほしい。  予想はしていたが、約四年間ずっと夏でも快適に過ごせる部署に在籍していたせいか、これはかなり身体的にも精神的にも来る。あんなに営業部に配属されたいがために必死になって業績を残したのに、今は一刻も早く施工管理部に戻りたかった。  これから先、きっと九月になっても残暑になるのは当たり前で、地球温暖化の進行で十月まで残暑が続くと思うと、ゾッとした。  最後の営業先の訪問を終え、やっと地獄の暑さから解放されることに自然と笑みが零れた。これで会社に戻って涼める。陽太は重たくなった足を前に前に運ぶと、段々と視界が朦朧としているのに気づいた。それでも前に前に足を動かし、そして案の定倒れる。バタッと、全身から力が抜けたように地面に倒れた。アスファルトは焼けるように熱い。頬に熱気がビンビンと伝わってきた。でも力が入らなくて、体も動かない。それに少し気持ち悪い。吐きそうだ。
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