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良い人だな、知らない人の看病を丁寧にしてくれるなんて。陽太は目を閉じると、深く息を吸った。そう言えば、ずっと呼吸も浅かった気がする。一人で営業することに対する緊張と不安のせいだろう。深く息を吸い、全身の強張りが解けた。意識も段々と遠のいていく。
あっという間に陽太は眠りについた。ここ最近は眠ることも疎かになっていたこともあってか、次に目を覚ました時、外は闇に染まっていた。外が真っ暗なのを見て、陽太はハッとなる。急いで体を起こし、そのせいで頭がズキッと痛んだ。
「会社……」
かけられていた毛布を避け、荷物を持つと光がある方に進む。部屋から出た時、ふわっと沢山の香りが鼻をくすぐった。花だ。色とりどりの花が部屋の中で咲いている。どれも丁寧に扱われているのが分かる、良い花たちだった。
「あ、もう大丈夫なんですか?」
後ろから声がして、陽太はハッとなる。陽太を看病してくれたあの女の声だ。
「あの」
陽太は振り返ると、女と目が合った。全身に電気が駆け巡ったような衝撃が走る。今までに感じたことのない衝撃だ。
艶やかな髪を一つに纏め、品の良さそうな恰好をした女は陽太に近づくと、じっと顔を見た。いきなり顔を近づけたものだから、咄嗟に陽太は顔を背ける。
「あ、すみません。でももう顔色もバッチリですね」
「お陰様で……すみません、看病してもらっちゃって。お仕事があるのに」
「いえ、困ったときはお互い様です。それに、あのまま放っておいたら刈部さん死んじゃうので」
刈部さんと呼ばれ、陽太はきょとんとする。
「名前、何で知ってるんですか?」
「あ、すみません。実は刈部さんが眠っている時に、会社の同期の朝比奈さんから電話が来まして。そこで名前を知りました。何度も何度も掛かってきたもので……勝手に出ちゃってすみません」
「あ、いえ。それで電話の内容って?」
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