第一章 一瞬

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「刈部さんを心配しての電話でした。営業に行ったきり戻ってこないから、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配されたそうです」 「ああ……」  後で朝比奈に無事だと電話をしよう。あいつ、友達思いだし、やけに心配性だから今頃冷や冷やしてそうだ。それよりも今は目の前にいるこの女。 「あの、名前を伺ってもいいですか?」 「間中(まなか)瑞穂(みずほ)です。ここの花屋で働いてます」 「間中さん、看病していただきありがとうございました。命の恩人です」 「そんな……人として当然のことをしたまでです」  ニコッと瑞穂が笑うと、ぎゅっと心が締め付けられた。 「刈部陽太と言います。そこの、丸藤(まるふじ)建設の営業部で働いています。これ、名刺です」 「頂戴します」  瑞穂は名刺を受け取ると、自分の名刺も出して陽太に渡した。シンプルな陽太のデザインとは違って、瑞穂のは花のデザインが散りばめられており、花屋らしい名刺のデザインだった。 「あの、今度お礼に伺います」 「そんな、大丈夫です」 「でも、俺は間中さんに助けられなかったら今頃死んでますし。感謝してもしきれません」  率直に思いを伝えると、瑞穂が照れたような笑みを浮かべる。 「じゃあ、お待ちしております」  陽太はニコッと笑うと、瑞穂に一礼して外に出た。外はまだ蒸し暑いが、日中の暑さとは尋常じゃない違いがあった。これは体調を崩す。季節の変わり目は体調を崩しやすいというが、まさにそうだった。  全身でまだ鼓動が波打っている。ドクドクと耳に聞こえるくらいに五月蠅い。人と出会って、電気が走ったことなんて無かった。あんなの初めてだった。  陽太は会社に向かって歩き始めると、少し頬を赤らめながら瑞穂のことを思い出す。
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