14人が本棚に入れています
本棚に追加
「刈部さんを心配しての電話でした。営業に行ったきり戻ってこないから、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配されたそうです」
「ああ……」
後で朝比奈に無事だと電話をしよう。あいつ、友達思いだし、やけに心配性だから今頃冷や冷やしてそうだ。それよりも今は目の前にいるこの女。
「あの、名前を伺ってもいいですか?」
「間中瑞穂です。ここの花屋で働いてます」
「間中さん、看病していただきありがとうございました。命の恩人です」
「そんな……人として当然のことをしたまでです」
ニコッと瑞穂が笑うと、ぎゅっと心が締め付けられた。
「刈部陽太と言います。そこの、丸藤建設の営業部で働いています。これ、名刺です」
「頂戴します」
瑞穂は名刺を受け取ると、自分の名刺も出して陽太に渡した。シンプルな陽太のデザインとは違って、瑞穂のは花のデザインが散りばめられており、花屋らしい名刺のデザインだった。
「あの、今度お礼に伺います」
「そんな、大丈夫です」
「でも、俺は間中さんに助けられなかったら今頃死んでますし。感謝してもしきれません」
率直に思いを伝えると、瑞穂が照れたような笑みを浮かべる。
「じゃあ、お待ちしております」
陽太はニコッと笑うと、瑞穂に一礼して外に出た。外はまだ蒸し暑いが、日中の暑さとは尋常じゃない違いがあった。これは体調を崩す。季節の変わり目は体調を崩しやすいというが、まさにそうだった。
全身でまだ鼓動が波打っている。ドクドクと耳に聞こえるくらいに五月蠅い。人と出会って、電気が走ったことなんて無かった。あんなの初めてだった。
陽太は会社に向かって歩き始めると、少し頬を赤らめながら瑞穂のことを思い出す。
最初のコメントを投稿しよう!