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ここ、男子校なんだが?
「よく聞け貴様ら! 俺は見ての通りの装いだが、女装を好んでいるわけではない。俺に触れた奴は撃ち殺す。以上!」
不遜な態度とは正反対の凛とした佇まい。華やかでありながら清楚な顔立ち。肌が白いせいか、赤みの強い唇がやけに目を引く。
水色の夏服が涼しげに教室を彩るなか、たったひとり黒の冬用セーラー服をまとった異色の存在──教卓の上に仁王立ちした転校生の風貌に、クラスメイトはもちろん、担任の教師までもがぽかんと口を開けて固まっている。
制服の季節感がどうこう以前に、ここは男子校。転校生も男子であって然りのはずが、今回に限ってはその概念がことごとく覆されている。
艶やかな黒髪のポニーテール、ミニスカートからすらりと伸びた白い脚。声と口調の他には、男子の要素が一つも見当たらない。
つまりあの転校生は、どこからどう見ても美少女……。
………あぁ、なんだ現実か。徹夜でゲームしたせいで白昼夢でも見てるのかと思った。
確かに俺の夢だったら、同じ美少女でも黒髪ポニテじゃなく金髪ツインテが登場していたことだろう。難攻不落なイメージの清楚系黒髪美少女より、すぐに懐いてくれそうでちょっとだけエロさもある派手めな美少女の方が好みだ。
美少女美少女いっているが、俺は変質者じゃない。
俺は櫨川 暁穂、高校二年生。リアルとか二次元とか関係なく、美少女であれば愛でたい精神で生きているただの美少女オタクだ。
ちなみに趣味には一人で没頭したいタイプのオタクなので、ファンイベントの類いには参加しない。推しへの情熱を共有する仲間なんて、俺にはまったく必要ない。強がりなんかじゃない。
……それにしても面倒臭そうな奴が来た。気配を消しているので存在を認識されるはずはないが、万が一認識されたとしても絶対に関わるまい。
「漆原 紅」と書かれた黒板と教卓の上の転校生を見比べながら、俺は最後列の席で人知れず警戒態勢に入った。さらに入念に気配を消して恐らく半分ほど透明化したところで、鞄から文庫サイズの本を取り出す。
周囲の音が気になるので耳栓も取り出そうとしたその時、騒がしかった教室内が一気に静まった。反射的に顔を上げると、例の転校生はいつのまにか黒い銃を抱えていた。
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