40人が本棚に入れています
本棚に追加
―3653日前、月曜―
山の奥の森の、さらに遠い果て。
森の木立がまばらになり、垣根が現れる。
門の向こうに見える、古い造りの屋敷。
その手前には、芝生を敷きつめた庭が広がる。
四歳のボクには、とても大きな庭園に思えた。
小高く盛り上がった芝生は、ちょっとした丘だ。
その頂上には、バラの浮き彫りが入ったテーブルと四つの椅子が並ぶ。
女のひとが、日傘をさして腰かけていた。
前からボクを待っていたように微笑み、手招きする。
ふわりとした白いシャツ。
たくさんのひだ……プリーツがある紺色のスカート。
白い歯がこぼれて、雲間から光が射してくるみたいに明るく感じた。
笑顔に吸い寄せられて、ボクは庭に足を踏み入れる。
奥にある植えこみに、黄色に白に紫、色とりどりの花が咲く。
レンガのかたわらに転がるじょうろ。
懸命に芝生を登って、そのひとの向かい側にちょこんと座る。
ことり。
硝子のグラスが目の前におかれる。
少し白く濁った何かの飲み物。
氷がからんと鳴り、ストローと一緒に転がった。
「冷たくておいしいよ」
そのひとは、もう一度笑顔を浮かべる。
勧められるまま、グラスに口を近づけた。
さわやかな香りが鼻をくすぐる。
そのまま、ぱくりとストローにかぶりついてちゅうっとすする。
最初のコメントを投稿しよう!