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甘さと一緒に、口をすぼめたくなる酸味がのどを通り過ぎた。
思わず「っああ」と舌鼓を打つ。
「レモネードよ」
女のひとはそう言って、ボクをまぶしそうに眺めた。
「おいしい?」
飲み干すと、そう訊いてきた。
うすい唇から、また白い歯がこぼれる。
ボクも、ストローから口をばっとはなして、満面の笑みを返した。
そのひとはボクの笑顔を見て、声をあげて笑った。
ずっと年上なのに、どういうわけか、同い年の友だちみたいに感じる。
涼しい風が吹き、軒下に吊るされた風鈴がちりんと鳴った。
それからふたりで、あれこれと話しこんだ。
でも、四歳の話題は他愛もなくこま切れで、何も覚えていない。
ボクが話すたび、女のひとは朗らかに笑って、すぐ顔をのぞきこんでくる。
気になって、つい怒ったら、もっと大きな声で笑われてしまった。
なんだかとっても楽しいひとときだった。
どれほど長い時をすごしたのかわからない。
いつの間にか、陽は西に傾いていた。
その後、どうやって山のふもとまで帰り着いたのか、よく思い出せない。
誰かに遠くから呼ばれた。
それから、誰かに背負われて、青白い靄の中を進んでいた気がする。
ただ、振り向くと、靄が切れた向こうの山頂に、高い高い木が見えた。
それだけはくっきりとまぶたに焼き付いている。
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