―3653日前、月曜―

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 甘さと一緒に、口をすぼめたくなる酸味がのどを通り過ぎた。  思わず「っああ」と舌鼓を打つ。 「レモネードよ」  女のひとはそう言って、ボクをまぶしそうに眺めた。 「おいしい?」  飲み干すと、そう訊いてきた。  うすい唇から、また白い歯がこぼれる。  ボクも、ストローから口をばっとはなして、満面の笑みを返した。  そのひとはボクの笑顔を見て、声をあげて笑った。  ずっと年上なのに、どういうわけか、同い年の友だちみたいに感じる。  涼しい風が吹き、軒下に吊るされた風鈴がちりんと鳴った。  それからふたりで、あれこれと話しこんだ。  でも、四歳の話題は他愛もなくこま切れで、何も覚えていない。  ボクが話すたび、女のひとは朗らかに笑って、すぐ顔をのぞきこんでくる。  気になって、つい怒ったら、もっと大きな声で笑われてしまった。  なんだかとっても楽しいひとときだった。  どれほど長い時をすごしたのかわからない。  いつの間にか、陽は西に傾いていた。  その後、どうやって山のふもとまで帰り着いたのか、よく思い出せない。  誰かに遠くから呼ばれた。  それから、誰かに背負われて、青白い靄の中を進んでいた気がする。  ただ、振り向くと、靄が切れた向こうの山頂に、高い高い木が見えた。  それだけはくっきりとまぶたに焼き付いている。
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