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雄の匂いに誘われるように、俺は、立ち上がりかけているルスのそれを布越しに撫でる。
ルスは小さく肩を震わせただけで、やはり何も言わなかった。
どくんと胸が鳴る。
高まる期待に、俺の下腹部に熱が集まる。
布越しに擦れば、ルスのそれはクッキリと力強く立ち上がった。
濃い色の下着に、じわりと小さな染みができる。
それがたまらなく嬉しくて、俺は布越しに口付けた。
「っ……、お前……何、を……」
ルスの戸惑う声がする。
でもこれは、否定では無いな。と判断したのは心だったのか、頭か。
下着の中では苦しそうなそれを、俺はそっと外へ出してやる。
「レイっ、何する気……」
焦りを浮かべる親友の唇を、指先でそっと撫でる。
ルスは真っ赤な顔のまま、息を詰めた。
ああ、困惑している顔も、可愛いな。
俺はふわふわした頭のまま、囁いた。
「いくらでも、触っていいんだろ?」
「っ、それは、傷の話で……」
拒絶の言葉に、思わず視界が滲む。
ダメなのか……。
……やっぱり、俺では、ダメなのか……。
「……俺の事、慰めてくれよ……」
「……っ!」
どうか、俺を……、俺を受け入れてほしい。
悲しみを隠し切れず縋り付くと、ルスは動揺した。
結局俺は、団長の言った通り、ルスの情に訴えていた。
「お前、言ったよな。俺のためなら、何だってするって……」
俺の言葉に、ルスは顔色を変える。
「……ああ……」
その言葉は、暗い覚悟とともに吐き出された。
やってしまった。
これは禁じ手だったはずだ。
こんな風に言われれば、ルスは断れない奴だと分かっていたのに。
こんなのは同意じゃない。ただの脅しだ。
「じ、冗談だよ、冗談っ!!」
叫ぶように言って、俺は布団を掴んで頭からかぶると、ルスに背を向けてベッドに寝転んだ。
これ以上ルスを見ていたら、とても冗談にはできそうにない。
脅してでも、無理矢理でも、襲ってしまいそうな自分が怖かった。
しんと静まり返る室内に、時計の音だけがコチコチと響く。
「なあ、レインズ……」
ぽつりと落とされたルスの言葉に、俺の心臓が跳ねる。
なんて言われるのか、まるで予想ができない。
もう友達じゃ無いとか言われた日には、俺は明日を生きる自信がない。
「……お前は、俺の何なんだ?」
「え……?」
問われて、思わず振り返る。
ルスは真っ直ぐに俺を見ていた。
ほんの少し前なら、笑って親友だと答えられた。
けど、今はどうだ。
これでもまだ、俺はお前の親友だと、言ってもいいんだろうか。
言葉に詰まる俺に、ルスはなんとも言えない寂しそうな顔をした。
それは、長年の親友を失ってしまった男の顔だった。
「っ違う! 違うんだ! 俺は、お前を騙してたわけじゃなくて……」
口に出して、ようやく気付いた。
俺はずっと、こいつを騙していたんだと。
そして、目の前の男は、それに深く傷付いているのだ。と。
求められているのは『親友だ』なんて嘘じゃない。
俺の、本当の気持ちなんだ……。
涙が零れる。
これは、後悔の涙なのか、懺悔の涙か。
どうしようもなくて震える俺を、ルスはその胸に抱き寄せた。
温かい……。
ルスの胸も、腕も、温かくて。俺は、初めてルスと握手を交わした日の事を思う。あの日のまま、ずっと……、ずっと変わらずにいられたら良かったのに。
ルスは俺と同じ酒くさい息で、それでも優しく、囁いた。
「困った時には何でも言ってくれと、言っただろう?」
ああ、そうだった。
確かにそう言われていた。
けど俺は、俺が困っていた事に、ずっと気付けないでいた。
「ルスが……。ルスがちゃんと幸せになって、俺なんか、もう要らないって、言ってくれたら、良かったんだよ……」
俺は、ルストックが幸せなら、それでよかったのに。
お前が笑ってくれるなら、彼女作る手伝いだって、結婚式のスピーチだって、胃薬飲みながらやったってのに。
俺がどんだけ、嫉妬に胃ひっくり返して嘔吐繰り返しながら、二次会まで付き合ったと思ってんだよ。
「なんで、幸せになってくれなかったんだよ……」
絞り出すような俺の言葉に、ルスはキョトンとした顔で返す。
「俺は十分、幸せだと思って生きているが?」
「はぁぁぁぁぁあああ??」
「心外だな。レイは俺のどこが不幸に見えるんだ?」
不服そうに口を尖らせてる顔が可愛い。いや違う。そうじゃなくて。え、なんだお前、そんななりで幸せいっぱいだって言ってんのか??
「だってお前……、故郷潰されて……」
「王都の孤児院に拾われたおかげで、剣も学べたし、教育も受けられたよ」
「奥さんも息子も食われて……」
「自棄になってた俺を、助けてくれたのはお前だろう?」
「足だって動かなくなって……」
「そうだな、これはちょっと、一人では生活し辛いな。だが不幸というほどのことでも無いだろう」
茶色がかった黒髪の男は、前に落ちてきた髪を後ろへ撫で付けながら、笑って答えた。
ああ。やっぱりこいつは、強くて、優しくて、たまらなく凛々しいと思う。
「………………お前……」
「なんだ?」
「ほんっっっと強いな……」
「はは。そう見えるか?」
俺の思ったままの呟きに、ルスは目を細めた。
「俺が折れずにいられたのは、お前がいつも傍にいてくれるからだ」
「へ……?」
不意打ちに、情けない声しか出なかった。
ルスの真摯な眼差しが、まっすぐ俺を見つめている。
俺は顔が熱くなるのを止められない。
「お前がいつだって、俺を支えてくれた。俺の悲しみを半分に、喜びを倍にしてくれたのは、いつもお前だろう?」
「そ……ん、な……」
そんな風に、してやりたいとは思っていた。
いつだって支えたいと願っていたし、これからだって、俺は、許されるのなら、お前の足になりたいと思っている。
「なあ、レイ、聞かせてくれ」
気付けば、俺の肩はどちらもルスの分厚い手に掴まれていた。
真っ直ぐ覗き込む小さな黒い瞳は、俺が答えを告げるまで、逃さないと言っているようだった。
「お前、本当は、俺のことどう思ってるんだ……?」
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