第5話 花のような

2/9
前へ
/55ページ
次へ
え、なんだ、これ。 昨日の事は、無かったことにされる流れか…… ??? いや、だとしたらさっきまですげえ触れてきたのおかしくないか?? 振り返らないルスの前に回り込めば、ルスは頬をほんのり染めていた。 「んん? ……なんか、お前、顔赤くねぇ?」 俺とぱち。と目が合うと、ルスは慌ててその瞳を逸らした。 ……どういうことだ? 「……悪い。その……。お前を見ていたら、昨夜の事が思い出されて、だな……」 ん? あ!!!??? 「もしかして、俺見て、やらしい気分になった……て、ことか?」 そろりと手を伸ばして、ルスの股間を撫でれば、そこはじわりと熱を持っていた。 まじで? まじでか! なんだこれ、すげえ嬉しい!!! 「触るんじゃない。帰れなくなるだろう」 「そうだよなぁ。顔の割れてる中隊長が、朝っぱらからこんなにおっ立てて、街中歩くわけにいかねーもんな」 言いながらも、俺はそれを繰り返し撫でる。 服の中で、むくむくと立ち上がるこれは、俺に反応してるんだ。 他の誰でもない。俺に、ルスは欲情してる。 そう思うだけで、俺の内に熱が湧き上がる。 「こら、レインズ、やめろ」 ぐいと肩を掴まれ引き離される。 が、見上げたルスの顔は赤く染まり、小さな黒い瞳は欲を宿して俺を見ていた。 「なあ、俺の内側、綺麗にしてくれた時って、お前、何考えてた?」 俺の質問に、ルスはごくりと唾を飲む。 「お前は……、寝てても、内に触れると小さく喘いで、俺は、寝てるお前を何度犯したいと思ったか……」 「……でも、入れなかったんだ?」 ルスがコクリと小さく頷く。 何だよ、別に遠慮しなくても。俺が寝てたって、突っ込めばいいんじゃねーの? ……まあ、それをしないのが、ルスのルスらしいところか。 「じゃあ、まだ溜まってんじゃねーの? 俺は二度出したけど、お前は一度きりだよな」 俺の言葉に、ルスは困った風に苦笑する。 「まだ時間あるし、今からヤるか?」 俺の弾む言葉に、ルスは静かに首を振った。 「……お前の気持ちはありがたいが、やめておくよ」 そう言って、ルスはゆっくり、深く呼吸する。自分を鎮めるように。 何でだよ……と言いかけて、気付いた。 俺のためだ。 俺が二日酔いで、まだケツも痛いって言ったから……。 「でも……、でも、そしたら、ルスはどうするんだ。家に帰って、一人で抜くのか? せっかく恋人が出来たってのに、そんなの、寂しすぎねぇか?」 俺の言葉に、ルスはキョトンと小さな目を丸くして、それから笑った。 「別に寂しくはない。一人の時も、お前を思ってすると誓おう」 うあああああああ、おっ男前ぇぇぇぇぇぇっっっ。 いやそーじゃなくてだな。えっ、ていうか俺のこと思ってしてくれんの!? えっ、まじで!? いやでも俺のこと想像して、抜ける……のか!? え、俺で抜けるくらい、お前、俺の体で感じてくれたわけ!? 「じゃあな」 短い言葉に、ハッと顔を上げる。 玄関の戸に手を伸ばしたルスの腕を慌てて掴む。 「まっ、待て待て待て待て! そんくらいなら、俺がやるから!」 「いや、いい。お前はゆっくり休んでおけ」 ルスがそっと俺の髪を撫でる。 解いたままの髪の中で、ルスの指が傷痕に触れた。 「痛っ……」 びくりと肩を揺らした俺に、ハッとルスが顔色を変えて手を引っ込める。 「悪い…………。お前、まだその傷は痛むのか……」 「ああ、いや、何箇所かだけな。触らなきゃ、まあ……」 天気の悪い日にも、痛むけどな……。 お前が気にするだろうから、言いたくなかったんだよ……。 「そうか……。それでお前、俺の傷に触れる時、痛くないかと繰り返したんだな」 ルスが、納得したというような顔で俺を見ると、傷の無い側頭部を優しく撫でた。 ルスの温かい手がするりと降ってきて、俺の頬を包む。 「レイ……」 小さな黒い瞳が俺をまっすぐ見つめている。 ルスの親指が、ゆっくり俺の頬を撫でている。 「俺はお前が、この世で一番、大切だよ」 ルスの言葉は、嘘偽りのない言葉だった。 好きだとか、愛してるとか、そういうのじゃなかったけど。 確かにこいつは、俺の事が一番大事なんだろう。 それはきっと、俺が気持ちを伝える前から、変わらなかったんだ。 そして今、俺の気持ちを知って、それを受け止めて、それでも。 俺のことが一番だって、言ってくれたんだ……。 胸がいっぱいで、言葉が出ない。 「…………ルストック……」 その名を呼んだら、涙が溢れた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加