第5話 花のような

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そんなわけで、俺は今、右手を石鹸でぬるぬるにして、服を脱いで風呂場の壁に両手をついたルスの背後にいるわけだ。 なにこれ。なにこのシチュエーション。 やっぱこれ、酔った俺の夢だったりしないか?? 「レイ?」 声をかけられてハッとする。 いやいや、夢でもいい。夢でも、ルスには優しくするから。 「いや、触れるぞ」 声をかけると、こくんと小さく黒髪が頷いた。 俺はその固く閉じた蕾へ、指を這わせた。 入り口を指先でクルクルと撫でる。 ルスの尻は全体がごつっとしていて、筋肉がギュッと引き締まって重い感じだ。 緊張しているのか、その入り口は侵入を許す様子がまるで無い。 俺は左手にも石鹸のぬめりを移すと、ルスの前へと手を伸ばした。 「っ!?」 ルスが肩を揺らす。 まだ形を保っていたルスのそれを撫でながら、俺は声をかける。 「今から入れてくからな、力を抜いて、苦しい時は、ゆっくり息を吐いてろよ」 「怪我をした時の呼吸と同じだな」 「まあ、そだな」 理解の早いルスに、まあ確かに、俺達はしょっちゅう痛い思いもするしな……。 と思いながらも、それをわざわざ自分から受け入れようとするルスの懐の広さに再度感嘆する。 ほんとに……こんな奴がそばにいたら、他の誰を見たって、魅力的に思えねぇよ。 俺は小さく苦笑を浮かべながら、その内へ指を挿し入れた。 第一関節まで入れると、ルスが小さく震えた。 俺はゆっくり第一関節までを出し入れしながら、入り口周りを撫でさすり、ほぐしてゆく。 その間も、前をゆっくり扱く。 前への刺激に合わせて、指をじわじわと奥へと挿し込む。 ルスは、両手を壁についてはいるが、片足で立ってるようなもんだ。 杖は木製で濡らさない方が良いらしく、ここへは持ち込んでいない。 なるべく手早く、けど痛まないようにしてやらねぇとな……。 後ろへ挿れた指はもう随分奥まで進み、指を締めつける入り口にも少し余裕を感じる。 もう一本、そろそろ入るか……? 「指、増やすぞ」 「っああ……」 ほんの少し苦しげな声で、返事が返る。 ルス、今どんな顔してんだろ。 顔が見てぇな。と思う。 けどまあ、これが終わったら、ベッドに行けるしな。 俺は二本、三本と指を増やすと、水を注いで中を綺麗に洗い流す。 「は、ぁ……っ」 苦しげなルスの息。 片足がブルブルと震えている。 「終わったぞ、ルス」 ホッとしたらしいルスが、振り返ろうとして一瞬姿勢を崩す。 慌てて抱き止めるが、俺より大きな体を支えきれずに、俺はルスを抱いたまま風呂場の壁に背を強か打った。 「――っ!!」 ……だがまあ、倒れてないのでセーフだろ。 ルスが、怪我しなくて良かっ……。 ズキンと、背骨を貫くような痛みが走る。 「っ……てぇ…………」 あ……この感じは、ちょっと……、まずいかも知んねーな……。 「す、すまん。大丈夫か?」 思わず閉じた目を開けば、上気した頬で額に汗を浮かべたルスがいる。 荒い息で、潤んだ瞳で、それでも心配そうに俺を覗き込んでいる。 俺の下腹部に急激に熱が集まる。 「へ……、ヘーキヘーキ! 何ともねーよ、こんくらい」 焦りながら答えると、ルスがふにゃっと表情を崩した。 「そうか、良かった……」 痛む背を堪えて、何とかベッドへ移動すると、俺は全裸のルスに服を脱がされた。 「これは……すぐ冷やした方がいいな」 ルスは俺の背を覗き込んで言った。 俺の背は、殴打した部分に血が滲み、その奥も色を変えていた。 「いや、そんな大袈裟な……」 自分の声は、自分でも、酷く嘘っぽく聞こえた。 「お前も、分かってるんだろう」 じっと見られて、俺はじわりと俯く。 ルスは手早く手拭いを濡らすと俺の背に当て、ベッド脇のテーブルに水差しやら水桶やら色々並べた。 それから、躊躇うことなく服を着始めた。 「え、ちょ、ルス……?」 時計を見ても、まだ午後までは時間がある。 「俺はこれから団長のところへ報告してくる。お前の第三中隊は、今日俺が指揮を取る。それでいいな? 帰りに医務室で薬も貰ってくるから、しばらく待っていろ」 「お前の九番隊はどうすんだよ」 俺の言葉に、ルスは頼もしい隊長の顔で笑って答えた。 「俺の隊は、リンデルに任せておけば大丈夫だ」 それは現勇者の名前だった。 ルスが入隊から大事に育て上げたその青年は、どうやらもう次期隊長として十分働けるらしい。 「……もう、引き継ぎしてたのか……?」 「まだ全部じゃないが、大体はな。次の春には、俺は引退だ」 「引退って……退役じゃないんだろ?」 俺の声は、自分で思うよりずっと不安げだった。 「まあな、城で新人教育を担当することになってる」 ホッと胸を撫で下ろした俺に、着替えを済ませたルスが近付く。 ルスが伸ばした分厚い指先に、そっと頬を撫でられて、それから額に口付けられる。 「いいか、お前は安静にして待っていてくれ。分かってるな?」 真っ直ぐな瞳に、僅かな圧力を感じつつ、俺は大人しく頷いた。 ルスはそんな俺を見て、小さく浮かべた苦笑を苦しげに歪めて言う。 「……俺のせいで、怪我させてすまなかった。……痛むだろう?」 「っ、お前のせいじゃ……!」 俺の口を、ルスは唇で塞いだ。 ぐい、と深く口付けられて、俺は言葉を失う。 ゆっくりと唇を離したルスは、伝う銀糸をぺろりと舐めて、頼もしく微笑んだ。 「今日は一日、家でゆっくりしててくれ。昼までに、薬と食べ物を用意してくる」 「……分かった」 俺は、真っ赤な顔を覆って、何とかそれだけ返した。
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