第3話 青天の霹靂

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それからの俺は、とにかく剣の修練に打ち込んだ。 この先、ルストックとまた共に戦う時に、せめてあいつと同じくらい戦えない事には、格好が付かない。そんな一心で。 いつの間にか、俺の中の『親の希望通りに騎士になんかなりたくない』という小さな拘りは、消えて無くなっていた。 毎夜のように遊び回っていた仲間達とは、すぐ疎遠になった。 かわりに、ルストックとはクラスが違っても、修練場で、食堂で、よく話すようになった。 そんな中、三年に上がるタイミングで、部屋割りが変わった。 三~五年は、これから先騎士団での生活に活かせるようにと、三学年をまたいだ縦割りの部屋割りとなっていた。 一、二年の頃は八人部屋だったが、上級生の部屋は六人部屋で、基本は各学年から二人ずつだった。 同学年のやつは俺以外に一人だけ。 だから、まさか、ルストックと同じ部屋になれるとは思ってもいなかった。 指示された部屋に入ったら、あいつがいた。 あの時は、本当に、心臓が止まるかと思った。 俺達は、クラスまで一緒になり……というより、二クラスだった騎士クラスが三年の壁の後、ひとクラスとなり、それこそ毎日、朝から晩まで顔を合わせるようになった。 俺はルストックを『ルス』と呼ぶようになり、あいつもまた俺を『レイ』と短く呼んでくれるようになった。 この頃には、俺にももう分かり始めていた。 俺が、ルスに向けているこの気持ちは、どうやら友情ではないようだ。と。 俺は毎日、あいつのほんの些細な仕草に、どうしようもなくドキドキしていた。 「レイ、おはよう」 なんて、寝起きのふにゃっとした顔で柔らかく微笑まれた日には、俺は顔が赤くならないようにするので必死だった。 俺は三男で、特に親が決めたような相手もなかったから、中等部の頃から声をかけてくる女の子達と、そこそこお付き合いはしてきた。 女の子達のことは皆可愛いと思っていたが、こんなに心臓が壊れそうな程ドキドキすることは無かったのに……。 二段ベッドが壁際に縦に二つ、窓際に一段のベッドが二つ並べられた六人部屋で、あいつは窓際のベッドだった。 俺は壁際の上の段から、よくあいつの顔を盗み見ていた。 目が覚めると、ルスはいつもムクリと起き上がり、しばらくベッドに座り込んでいる。 縦長の窓から差し込む朝日に、茶色がかった黒髪を揺らして、こしこしと目を擦る。 寝起きのぼんやりした顔は本当に可愛くて、あれを俺だけの物にしたいと願ってしまう。 ルスが他の奴と親しげに話をしていれば、それが男だろうと女だろうと、どうしようもなく妬いてしまった。 俺はこんなに心の狭い男だったのかと、自分で自分に呆れるほどだった。 *** 「レインズ?」 微かな声に、ハッと我に返った。 見れば、修練場の新入隊員達は既にまばらで、解散された後のようだ。 下からルストックが俺を見上げている。 相変わらずの温かい小さな黒い瞳に、今俺が映っているのだと思うと……。 俺は、緩む口端を誤魔化すように、でかい声で答えた。 「よぉ。今日は休みじゃなかったのかー?」 ぶんぶんと手を振れば、ルストックは照れくさそうに苦笑した。 ああ。なんて可愛いんだろう。 あの照れた顔を、もっと近くで見たい。 もっと、俺の言葉であいつを笑わせたい。 けれど、それを伝える勇気は、俺にはまだ無かった。
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