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「バンドやろうぜ」 GW明け始めての衝撃は新見竜樹によってもたらされた。 放課後、まだ教室に残っていたクラスメイトはこちらに顔を向ける。 「いきなりなんなんだ」 「だから、バンドをしようぜ」 こちらの嫌そうな態度など気にも留めずギターを鳴らす真似をしてみせた。 「そういうのは仲のいい奴らとやるもんだろ」 カバンに手をかけ、その場を立ち去ろうとする。 「それも一つある、がしかし大物を目指すなら経験者とでしょ」 その言葉に足を止めた。 「どうやって知った」 新見はニヤリと笑うと 「油性ペン」 そう一言告げた。 血の気が引けるというのはこのことを言うのであろう。全身から冷や汗のようなものが出でくる。 「牧野、マッキー、油性ペン、なかなかいいセンスしてるじゃん」 嫌味か本当に褒めているのか分からないその一言がどうでもよくなるほど、自分の中で反省をしていた。 どうせ見られることはないだろうと、とあるサイトにあげたベースの動画。兄貴からいらなくなったベースを貰って撮ったやつ。編集がめんどくさく、顔の部分を切り取っていなかったのが運の尽きだった。 「見てくれたんですね」 変な敬語が出る。 「たまたまね」 100前後しか再生されていないはずだから本当に偶然見つけたんだろう。 「正直びっくりしたよ、動画見てて寝落ちして、起きたらクラスメイトが画面の中にいたんだから」 どんだけ運が悪いんだよ。 「確かめるために十回くらい見直したよ。で、何回見ても間違いなかった」 クラスメイトに自分が出した動画が見つかった上、そいつが音楽やりたがってるなんてどんな確率だよ。しかも視聴回数の十分の一がこいつだってのも地味に心にくるな。 「で、それをバラされたくなければバンドを組めっていうのか」 「強制じゃない、お願い」 とは言うものの言いふらされるようなことがあるかもしれないしこちらからしたら脅迫も同然だ。 「分かった、組もう、その代わり動画のことは内緒にしといてくれ」 「初めから言うつもりはないよ」 そう言う新見の顔は悪く見えた。
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